1. HOME
  2. 書評
  3. 米、英、中、ソの劇場 脇役に日本も

米、英、中、ソの劇場 脇役に日本も

ピンポン外交の陰にいたスパイ 著者:ニコラス・グリフィン 出版社:柏書房 ジャンル:社会・時事・政治・行政

価格:2808円
ISBN: 9784760146208
発売⽇: 2015/07/23
サイズ: 20cm/422p 図版12p

一九七〇年代初頭、アメリカと中国の間に劇的な宥和を生んだ「ピンポン外交」。そこには五〇年前にさかのぼる、一人の男の存在があった…イギリス名門貴族の出身にして、社会主義者、…

評者:吉岡桂子 / 朝⽇新聞掲載:2015年09月27日

ピンポン外交の陰にいたスパイ [著]ニコラス・グリフィン

 日本語に「ショック」という言葉が加わったのは、その瞬間だった——。
 この一文には苦笑いした。1971年7月、米国のニクソン大統領が訪中計画を緊急発表した時のことだ。冷戦下で反共ブームに染まっていたはずの米国と、文化大革命の大混乱にあった中国の急接近は、日本をふくむ世界の対中外交を塗り替えた。
 本書は、その導火線となった「ピンポン外交」にかかわる男たちの物語である。前半の主役は、英国貴族のアイヴァー・モンタギュー。ヒチコックの映画制作にもかかわった早熟の御曹司は、なぜか学生時代から共産主義にのめり込む。政治思想を広める道具として、英国生まれの卓球に目をつけ、ルールを作り、国際組織を立ち上げる。
 「インテリゲンツィア(知識階級)」というコードネームを持つソ連のスパイとなった彼は、卓球の普及を掲げて冷戦下の東西両陣営をすいすいと往来する。そこに目をつけたのが中国だ。国内の労働者の団結や統制を超えて国際政治に活用できるスポーツとして、卓球を選ぶ。
 米中国交回復前後を描いた後半の主役は、両国の政治家や代表選手だ。卓球をソフトパワーとして使いこなした周恩来首相の外交手腕に舌を巻く一方、そのことが大躍進や文革を世界の視線からそらし、悲劇を拡大した皮肉も感じた。名古屋で開かれた世界選手権で握手を交わし、ピンポン外交の立役者となった二人のその後も、印象的だ。グレン・コーワンは精神を患い、荘則棟は政治への野心を燃やし、そして失脚した。
 米国、英国、ソ連に中国という大国がそろうピンポン劇場に、日本も渋い脇役として随所に登場する。敗戦国日本の卓球の躍進が中国を刺激したり、日本選手が周首相を執務室に直接訪ねたりと、興味深いエピソードにでくわす。卓球が転がした歴史の妙を味わえる本だ。
    ◇
 五十嵐加奈子訳、柏書房・2808円/Nicholas Griffin 英国生まれ、米国在住の作家・ジャーナリスト。