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哀愁たっぷり男女6人青春物語

評者: 諸田玲子 / 朝⽇新聞掲載:2018年06月02日
キネマトグラフィカ 著者:古内一絵 出版社:東京創元社 ジャンル:小説・文学

価格:1728円
ISBN: 9784488027858
発売⽇: 2018/04/28
サイズ: 19cm/296p

老舗映画会社に新卒入社した“平成元年組”6人の男女が、2018年春、ある地方の映画館で再会する。今はそれぞれの道を歩む彼らは、思い出の映画を鑑賞しながら26年前の“全国フ…

『キネマトグラフィカ』 古内一絵〈著〉

 「ここなのかって思うのよ」 膝(ひざ)の上で拳を握り締め、咲子は微(かす)かに声を震わせた。「あれだけ頑張って、前に進んできて、でも、結局最後はここなのかって」
 印象的な場面である。
 何歳までが青春かはともあれ、青春が過ぎて――人生半ばになって――だれもがきっと一度はそんなもどかしさや苛立(いらだ)ちを感じるに違いない。一生懸命やってきたのに何ひとつ報われていないのではないか、と。傍(はた)からは羨(うらや)ましがられ、うまくいっているように見える人だって例外ではない。
 本書は6人の男女の青春グラフィティである。青春の一時期を共にした仲間が時を経て再会、昔の思い出をたどる……というだけなら、よくある話と言えなくもない。けれど本書の醍醐味(だいごみ)は、リアルで臨場感に満ちた仕事場の再現と、一人一人の心の奥底を透視するキメ細かな心理描写に、ぐいぐいひきこまれて、登場人物と同化させられてしまうところだ。
 1992年、舞台は映画会社。華やかに見えるのは外側だけだ。当時は35ミリプリントで映画を上映する。バトンリレーのごとく、はらはらしながら各地の映画館へプリントを届ける若者たちの回想が笑えて、しかも哀愁たっぷり。
 私も若いころ会社勤めをしていたので、彼らが彼女たちが、腹を立てたり落胆したりする社会の不条理、会社内の差別や矛盾はひとごととは思えない。そうそう、そうだったとうなずくことばかり。
 ある年齢以上の読者なら懐かしい映画のタイトルも合わせて、文句なく心をつかまれるだろう。若者なら、悩み苦しんで生きてきた、かつての若者たちの姿に自分を重ねて、少し勇気をもらえるかもしれない。
 そしてこんな場面も。
 和也がしみじみとつぶやいた。「俺たち、皆、苦労しながらここまでやってきたんだよ。でもそれって、悪いことではなかったと思うんだ」
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 ふるうち・かずえ 66年生まれ。映画会社勤務の後、『快晴フライング』で作家デビュー。『フラダン』など。