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植本一子「かなわない」書評 不器用な生き方、凝視する勇気

評者: 大竹昭子 / 朝⽇新聞掲載:2016年03月20日
かなわない 著者:植本 一子 出版社:タバブックス ジャンル:エッセイ・自伝・ノンフィクション

ISBN: 9784907053123
発売⽇: 2016/02/05
サイズ: 20cm/287p

かなわない [著]植本一子

 著者はフリーのカメラマンで、ラッパーECDの妻で、二人の娘の母親。育児の辛(つら)さ、家計の苦しさを家計簿付きで綴(つづ)った『働けECD』に続く、二〇一一年から一四年の日記だ。大地震後の放射能汚染や、仕事復帰への思いにこれまで以上に苛立(いらだ)ちをつのらせている。子どもを怒鳴りつけて大泣きさせ、自分も号泣する。親子ほどの年齢差がある夫はめったに動じず、それに救われつつも孤独になり自己を嫌悪するという悪循環を断ち切れない。キャリアの途上で若くして母親になった女性ならば、共感しない人はいないだろう。
 子どもが成長すれば少しは楽になるかと思えば、ページが進むほどに落ち込みと混乱は激しくなっていく。その背景にある事柄を明かした書き下ろしのエッセイは、綱の上に足を下ろし進んでいくような不器用な生き方しか出来ない彼女が、自分の身に起きたことを凝視しようとする勇気に満ちている。ページのどこかに自分がいる、そう思わせる本だ。
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 タバブックス・1836円