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大阪からつながる「本のアジア文化圏」 「ASIA BOOK MARKET」リポート

文・写真:鈴木遥

 その答えを求めて、会場となっているクリエイティブセンター大阪(大阪市住之江区北加賀谷)へと向かった。造船工場を活用した大阪のアート活動拠点だ。ASIA BOOK MARKETは、同時開催のイベント「KITAKAGAYA FLEA」のクリエイター・ブースを通り抜けた先の、建物上階で開かれている。足を踏み入れると、ビールの販売コーナーを中央に、様々なブースがランダムに連なって、至るところで本を介したコミュニケーションが盛んに繰り広げられていた。

 さっそく、ファッション誌のような華やかな表紙に惹かれて台湾の雑誌を手に取ると、思いがけず出展者からLGBTという言葉が飛び出した。雑誌のタイトルは「LEZS(レズ)」。中国語で書かれたレズビアンのライフスタイル誌だ。ビジュアルを重視しつつ、LGBTの文化や情報を精力的に発信している。そこから話は台湾と日本のレズビアン文化の違い、情報発信の現状へと広がっていった。「日本でのPRは今回が初めて。大阪は思ったより開放的で、お客さんは雑誌をすんなり受け入れてくれます」と編集長の王安頤さんは話す。

 その後も海外の出展者から話を聞いていると、アジアの複数国で販路を持ちつつも、日本でのPRはこのイベントが初めてというケースが目立つ。縁あって誘われたのがこのイベントで、その開催地が大阪だったというわけだ。何しろ、日本で開催しているアジア限定のブックフェアは、このASIA BOOK MARKETのみだという。

 東京で韓国専門のブックカフェ「チェッコリ」を運営している出版社クオンは、日本語が通じる数少ない韓国本ブースとあって、韓国語の本が飛ぶように売れていた。「普段韓国の本を手にする機会がない日本人が、韓国語の本をいっぱい買って行ってくれます。大阪の人は気持ちいい。来てよかったです」。経営者の金承福さんが記者に薦めてくれたのは、韓国のOL文化を紹介したコミックエッセイ「술꾼도시처녀들 3」(日本語で「お酒飲みの娘たち」)。もちろん中身は韓国語だが、会場には韓国語を勉強している若い日本人の姿も多く、彼女たちはアジアの文化を貪欲に吸収していた。

 「アジアでつながるイベントは大阪に多い。出版に限らず、アジアの映画祭もアートフェアも大阪で開催されている」。そんな話を耳にしたのは、中国初の中英バイリンガルデザイン誌であることを打ち出した雑誌「Design 360°」の販売ブースだった。中国の広州で発行する雑誌を紹介しているにも関わらず、やたらと日本語が流暢だ。不思議に思って尋ねると、ここで雑誌をPRしているのは、近畿大学文化デザイン学科の特任講師・後藤哲也さんとその学生たちだった。香港のデザイナーjavin moさんと日本人有志の共同出展だという。

 「日本人にとって中国はデザインが遅れている意識がある。でも実際はレベルが低いわけではないですよね」と、アジアのグラフィックデザインの研究を行っている後藤さん。
会場を歩けば、台湾・韓国・香港の書店や出版物との出会いをきっかけに、本気でアジアに目を向け始めた本好きの日本人であふれている。ここで多様な出版物に触れていると、日本の出版物がアジアの先端をいっている認識がいかに時代遅れかを実感する。

■関西から直接アジアへ、「東京」は介さず

 京都から参加した文鳥社は、まだ詩集一冊のみの小さな出版社だ。本を出して最初に起こした行動が、台北で開催されたブックフェアへの出展だった。「知人から誘われて参加したら、熱気がすごかった。日本語の詩の本が予想以上に売れました。台湾は本にお金をかける若者が多くて、外国の文化を求める心が強い。国内だけと頭が固まっていたのが、完全に意識が変わりました」と話すのは、本の作者であり文鳥社を経営する土門蘭さん。

 彼女のように、独立系の出版社や書店を立ち上げた若い世代が、既存の出版流通や東京への展開を差し置いて、アジアと直接つながっていく傾向が数年前から関西で増えつつある。こぢんまりと本を出している日本の出版社に台湾の書店からメールが届いて取引がはじまったり、日本の書店経営者が直接現地に出向いて本の買い取りを行ったり。そういったつながりの入口として、ブックフェアは機能している。

 イベントの主催メンバーであり、東京で本屋B&Bの経営などを手掛ける内沼晋太郎さんは、関西で本にたずさわる若い世代が東京に先駆けアジアとつながっていく動きが増えている理由を、「アジアとの親近感。距離的な近さ。東京は東京だけで完結しているので、わざわざアジアに目をかけないのではないか」と総括してくれた。ここまで会場で度々耳にしてきた話と一致する。

 大阪にはアジアからの来訪者が多い。東京より大阪のほうがアジアとの地理的な距離が近い分、交通費が安く、互いに行き来がしやすいというのもアジアと大阪の文化交流が盛んな理由の一つであるようだ。

松村貴樹さん(左)と内沼晋太郎さん

 そもそも、ASIA BOOK MARKETの出発点は何だったのか。主催のインセクツは、カルチャー誌「IN/SECTS」を発行する大阪の出版社だ。代表の松村貴樹さんがイベントを考案し、まわりを巻き込みながらアジアとのネットワークを築いてきた。「韓国・台湾・香港の出版事情が日本によく似ていると人伝えに聞いて、もっと近い関係性になれるのではないかと思い、イベントを企画しました。情報伝達の仕組みとして、東京を介すと良くも悪くも平均化する。言葉は違っても、地理的にも文化的にも近いアジア各地で、それも自分たちでやっている出版社や書店がつながることで巻き起こる何かに期待しています」と松村さん。

 本を共通言語につながっていく、新たなアジア文化圏。その一端を垣間見ることのできたASIA BOOK MARKETだった。