はじめて『羊と鋼の森』を読んだのは2年前。高校で受けた模擬試験に小説の一部が出題されて、心に響くひとつひとつの文章に時間を忘れるほど引き込まれていきました。偶然にもその後に映画のお話をいただいたので、さっそく本を買って読んでみると、森の音や静けさ、ピアノの音色が行間から聴こえてくるようで、すぐに作品の世界に没頭していきました。
映画では、ピアニストを夢みる姉妹、和音と由仁の役を、2つ年上の姉(上白石萌音)と私が演じています。由仁は自分と重なる部分が多く、特にコンクール当日に突然ピアノが弾けなくなったシーンは、とても他人事とは思えませんでした。姉妹や兄弟はどうしても比較されがちです。和音と由仁のように、あるいは姉と私のように、同じ世界で生きていればなおのこと。
私は姉の表現力や役に合ったカラーを出せるところが、自分にはない才能だと感じていました。そんな姉の芝居を、はじめて共演して間近で見たことで圧倒もされましたし、それぞれの個性をお芝居でぶつけ合って、よりお互いに対する理解が深まったように思います。家でも原作を取り合って表紙がすり切れるぐらい繰り返し読んだり、台本を読み合わせしたり。「共演するのはこれが最初で最後でもいい」と思えるほど、充実した時間を姉と共有することができました。
元ピアノ教師の母も協力して、私たちに指導をしてくれました。最初は椅子にも座らせてもらえず、呼吸法を教えてもらったり、体の力を抜く練習をしたり厳しかったですね。でもそれからは、お互いの役に入って練習したので、もともとしっかり者の姉は和音の端正で艶やかな音を、いつもマイペースな私は由仁の明るく弾むような音を弾き、お互いの性格が音色の違いに表れたのも面白かったです。小説では二人が弾いている曲はわかりませんが、映画ではショパンやモーツァルトなど具体的な楽曲として描かれています。それもまさに原作のイメージ通りで、映画化されたことでより作品世界に近づけたような気がします。(取材・文/樺山美夏)
原作者 宮下奈都さんから
小説では読者の胸の中でしか聞こえなかったピアノを、上白石姉妹がスクリーンで見事に再現してくれています。姉妹の魅力的なピアノの音色はもちろん、雪の舞う音や、風の音、森の匂いまでするようで、映画にはこんなこともできるのかと驚きました。とても幸せな体験でした。=朝日新聞2018年6月23日掲載