絲山秋子「末裔」書評 中年男の孤独な胸のうち
評者: 朝日新聞読書面
/ 朝⽇新聞掲載:2011年04月10日
末裔 (新潮文庫)
著者:絲山 秋子
出版社:新潮社
ジャンル:一般
ISBN: 9784101304557
発売⽇: 2014/03/28
サイズ: 16cm/312p
末裔 [著]絲山秋子
突然、家の鍵穴が消えてなくなり、世田谷の自宅にもどれなくなった定年間近の区役所職員、富井省三。妻を亡くし、2人の子供も成人して独り暮らし。頼る人もなく、街をふらふらするうちに、占師に泊まる場所を提供されたり、鎌倉の伯父の家に滞在中にしゃべる犬が出てきたり、不思議なことが次々と起こる。「なんでここにいるんだ」「俺は何をしているんだ」。家庭を顧みることのなかった省三は家族がバラバラになった現実を思い、やがて自分のルーツをたどるドライブに出る。中年男の孤独な胸のうちがどこかユーモラスに描かれる。根無し草になったような省三の日々は、つながりを失った社会で暮らす読み手の心の中で乱反射する。(講談社・1680円)