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山崎ナオコーラ「この世は二人組ではできあがらない」書評 社会に放つ若い女性の「つぶやき」

評者: 江上剛 / 朝⽇新聞掲載:2010年04月11日

この世は二人組ではできあがらない [著]山崎ナオコーラ

 主人公シオは1978年生まれ。ロス・ジェネといわれる就職氷河期世代だ。彼女は強く、たくましい。小説家になるという目標を持ち、自分で生き抜く力を持っている。
 一方、恋人の紙川は頼りない。この国はフリーターでも生きていけると正式な就職をせずに暮らしていたが、シオから資金援助を受けるようになり、やがて自尊心が傷ついたのか公務員になろうとする。しかし結局、大手塾の社員として働きだす。彼は組織の中で生きる方が輝くのだと、シオはその選択に納得するが、働きだしてもシオが苦労して援助した金を返そうともしないいい加減さだ。
 シオは、性を超越して緩やかに世界とつながっていこうと考えている。男と女という「二人組」ではなく、もっと社会性を獲得しようとしているのだ。その考えに同意できない紙川とは別れてしまう。同じ女性の母親にも理解されない。シオに「親に、男の人の代わりはできないものね」と悲しくつぶやく。母親は、女は男と二人組であるべきだと思っているのだ。
 シオたち若い女性は時代に合わせて大きく変化し、社会に貢献していこうとしている。ところが男性は、紙川のようにまったく旧態依然としたままだ。否、就職氷河期という現実を前にして、今まで以上に会社という狭い中に閉じこもろうとしている。この小説でそのことに強く気づかされ、愕然(がくぜん)としてしまった。男、女という性の役割にとらわれている私としては、これでいいのかと、男性の奮起を求めたくなった。
 もう一つ、この小説の面白さは社会に向かって放つシオのつぶやきにある。ツイッター(つぶやき)小説とでも言うべきかもしれない。たとえば「少子化対策」に力を入れる日本の現状を「それは『産めよ、増やせよ』と第二次世界大戦下に謳(うた)われたのと同じだ」とつぶやく。確かに男性目線の政策に違いないと、深く納得する。こんなつぶやきが随所にあって楽しい。娘がなかなか結婚しないと嘆く親世代が読めば、少しは娘に近づけるかもしれない。
 評・江上剛(作家)
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 新潮社・1365円/やまざき・なおこーら 78年生まれ。『人のセックスを笑うな』『浮世でランチ』など。