1. HOME
  2. 書評
  3. 「未開」通念を根本的にくつがえす

「未開」通念を根本的にくつがえす

アマゾン文明の研究 古代人はいかにして自然との共生をなし遂げたのか 著者:実松 克義 出版社:現代書館 ジャンル:歴史・地理・民俗

価格:4104円
ISBN: 9784768456217
発売⽇:
サイズ: 22cm/374p

アマゾンという豊饒かつ過酷な自然の中で古代人が作り上げようとしたのは、言葉の根源的な意味でのエコロジカルな文明である。著者自身の調査研究に基づいて、知られざるアマゾン文明…

評者:柄谷行人 / 朝⽇新聞掲載:2010年04月18日

アマゾン文明の研究ー古代人はいかにして自然との共生をなし遂げたのか [著]実松克義

 数年前に「秘境アマゾン巨大文明」と題したテレビの報道番組が話題になった。それは、日本とボリビア合同チームによる調査で、アマゾン上流にあるモホス大平原に、大規模な農業と都市のあとを見いだすという話であった。本書は、この調査の中心にあった著者が、その成果をまとめ、さらに、世界史的に文明を問い直そうとするものである。
 古代文明の発祥地として、メソポタミア、エジプト、黄河、インダスのほかに、アメリカ大陸では、メソアメリカ(オルメカ、マヤなど)とアンデス(インカ)の文明があげられる。が、アマゾン流域はいつも「未開」の地とみなされてきた。熱帯雨林の環境では、農業文明が成立しないと考えられたからだ。そのような固定観念に異議を唱えたドナルド・ラスラップは、1950年代から、アマゾン流域こそ文明に最適の地であると考え、アメリカ最古の文明はアンデス山地や太平洋岸地帯ではなく、アマゾンであり、それが他の地域に広がったのだと主張した。この仮説が実証されるにいたったのは近年であり、著者らの調査研究もそれに貢献するものだ。
 これは画期的な見方であり、アマゾン流域の原住民に「野生の思考」(レヴィ=ストロース)を見いだしてきた人類学者の見方、その影響を受けたわれわれの通念を根本的にくつがえすものだ。というのは、この地の原住民は、発展した農業と都市を一度経験した人たちの末裔(まつえい)であるから。また、ヤノマミ族を好戦的な未開人の典型として見ることも、人類学者が捏造(ねつぞう)した報告にもとづくことが判明している。
 アマゾン諸地域の都市は、大都市ではなく、小規模の居住地を多く建設し、それらを道路と運河で網目状に連結したものであった。また、すべてが土で作られ、石が用いられていない。これまで都市の遺跡が見つからなかったのは、そのためであろう。その意味で、他の古代文明とはまるで違っている。著者は、ここに、自然と共存しうる文明の可能性を見いだしている。
 評・柄谷行人(評論家)
     *
 現代書館・3990円/さねまつ・かつよし 48年生まれ。立教大学ラテンアメリカ研究所所長。