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tupera tuperaの絵本「しろくまのパンツ」 読み手が作品を進化させる

文:鈴木遥、写真:井上成哉

――tupera tupera(ツペラツペラ)のユニット名で活動する亀山達矢さんと中川敦子さん。2人の活動の場は絵本にとどまらず、Eテレの工作番組から演劇や空間プロデュース、さらにはCDジャケットからグッズ制作まで多岐に渡る。独特な世界を表現する2人の作品にはどのような制作背景があるのだろう。

亀山:15年前にミシンを使って手づくり雑貨をつくっていて、その雑貨ブランド名として付けたのがtupera tuperaです。布雑貨からはじまって、それが今のいろいろな商品につながっています。絵本ができたら、ワークショップをしてみようとかグッズをつくってみようとか。根本にあるものづくりの姿勢を変えずに、いろんなことをやっています。

中川:演劇やテレビや映画などの仕事もしていますけれど、そういう仕事は依頼があって、自分たちがそれに応えるというかたちです。絵本は、2人の掛け合いの中でなんとなく手を使って生まれたものを届ける一つの着地点として、自費出版で1冊つくってみるところからはじまりました。やってみると仕掛けも入れられるし、いろんな可能性がある。やればやるほど可能性が広がって、今も続けているという感じですね。

亀山:どんなものがつくりたいかが大事で、それが例えば料理になる人もいる。たまたま自分たちはおもしろいと思ったアイデアを、絵本に着地できちゃうっていう体質だったんですよね。

亀山達矢さん
亀山達矢さん

――そんな2人が2012年に出版した絵本『しろくまのパンツ』は、出版から6年で50万部を突破。「第2回街の本屋が選んだ絵本大賞」など国内外の数々の賞を受賞し、世界10ヵ国で出版されている。

亀山:2011年に廃材でつくった作品の展覧会をしたのですが、開催の1週間前に東日本大震災が起きて、作品の売上を寄付することにしました。すると、この作品が欲しいというより震災支援としての価値が強まってしまって、もやもやした気持ちがあったんです。買われていった一つに、しろくまの作品がありました。

 そのしろくまを買ってくれた人が、ブロンズ新社の社長兼編集長の若月眞知子さんでした。彼女が「これで絵本をつくりましょう」と言ってくれて。締め切りが近づいて、どうしようと悩んでいる時に思いついたのが、しろくまの作品の姿そのまま、絵本にパンツをはかせるアイデアでした。若月さんに「絵本にパンツをはかせられますか?」と聞いたら、前例がないと。でも試作をつくってくれて、中身がゼロの状態で表紙だけが先に決まりました。

『しろくまのパンツ』のモデルとなった廃材作品。しろくまがパンツをはいている
『しろくまのパンツ』のモデルとなった廃材作品。しろくまがパンツをはいている

――『しろくまのパンツ』は本の帯ならぬ紙のパンツをはいた絵本で、その表面には「パンツをぬがしてからおよみください」と書かれている。海外版もすべて同様のデザインだ。

亀山:読むためにパンツをぬがしたら、パンツがないよね。じゃあ、パンツはどこにいったんだろう。これかなあ、これかなあとページをめくりながらパンツを探して仕掛けも入れていって。最後のオチは悩んでいて、テニス帰りの車の中でアイデアを思いつきました。それをパートナーの中川や編集担当の若月さんに話しても「意味がさっぱり分からない」「そんなボケ方ないだろう」って。でも僕の中では絵のイメージができていて、おもしろいと思ったんです。それをものすごく熱心に言ったら、とりあえずやってみようということになりました。

中川:最後に歌っちゃって終わっていくというへんなオチで、なんでなのかよく分からないゆるさによって、この絵本は成り立っているなって私は思っています。

亀山:歌を入れたことで、全国の読者が困ってて。でもね、ミュージシャンの父親がライブで歌いたいと言ってくれたり、ラップにした友人がいたり、オペラで歌ったり、CDに焼いて送ってくれる人もいますね。

中川:そういう才能を持った人が世の中にはいっぱいいるんです。

中川敦子さん
中川敦子さん

――tupera tuperaの絵本は、ページをめくるごとに想像力をかきたてられて、読者は自然と絵本の世界へと巻き込まれていく。さらに紙の上だけでは終わらずに、絵本の中から現実世界へと飛び出し展開していくような、思いがけない遊び心があふれている。

亀山:僕らはコミュニケーションツールのような感覚で絵本をつくっているんで、読み手が作品をさらに進化させたり、それぞれが世界を広げていくというのが、僕らの作品の特徴かもしれないです。おもちゃのような絵本だと言う方もいますけど、物語的というより読んで笑ったりびっくりしたり。そういったアイデアはつねに頭にあるわけじゃなくて、人と話している時に、その都度出会いによって自分の新しい部分を開いていきます。(私たちにとっても)絵本づくりはそのコミュニケーション行為なんでしょうね。

中川:イラストは紙の切り貼りで、クラフトボードに紙を貼っていくことでつくっています。どんな仕事もなにかしら2人の意見や手が入っているから、時間が経つと自分たちでもどっちが何をやったかを忘れちゃう。

亀山:2人でああだこうだ言いながら進めていきます。僕がアイデアを出したら、いったん中川に預ける。それで僕は別のことをやっている。その間に、中川がさらにアイデアを重ねて、もっとおもしろくなったり、ぜんぜん違う方向にいってしまったり。

中川:2人いるから、相手に期待しているところもあれば、自分にも期待している。自分もそのうちおもしろいことを思いつかないかなって(笑)。

亀山:1+1が2になるように、1人より2人でつくるおもしろさがある。編集者も含めて人と人とを掛け合わせて作品を生み出すっていうのは、化ける可能性があります。いろいろな条件がシャッフルされて1つの作品になるのが、ものづくりのおもしろさですね。日常での出会いを楽しみながら、つねに新しいものを心がけながらつくった結果、予想外なかたちで広がっていった絵本がいっぱいあります。

アトリエの壁には、たずさわった仕事のフライヤーや工作物、読者からのお便りなどがぎっしり貼られている
アトリエの壁には、たずさわった仕事のフライヤーや工作物、読者からのお便りなどがぎっしり貼られている

――『しろくまのパンツ』の奥付には、切手代のみで「替えパンツ」が届くアフターサービスの案内がある。これは共に絵本づくりに関わった出版社側のアイデアだ。世代を超えて読み継がれる絵本をつくっているという志の表れでもある。しかしtupera tuperaの絵本は、決して子供ばかりが対象ではない。

亀山:絵本は子供が楽しむものではなくて、子供「も」楽しめる。寝たきりのお年寄りも絵本の異世界に瞬時に入って笑ってくれます。つい最近、「このしろくまは認知症なんですか?」って聞いてきたお婆ちゃんもいました(笑)。歳を重ねないと響かないこともある。大人にこそ、もっと絵本のおもしろさを知ってほしいですね。