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真藤順丈「宝島」書評 占領期の沖縄 若者たちの疾走

評者: 斎藤美奈子 / 朝⽇新聞掲載:2018年07月14日
宝島 HERO’s ISLAND 著者:真藤 順丈 出版社:講談社 ジャンル:小説

ISBN: 9784065118634
発売⽇: 2018/06/21
サイズ: 20cm/541p

宝島 [著]真藤順丈

 戦果アギヤー。米軍の倉庫や基地から物資を奪う者たちのことである。
 そうでもしなけりゃ生きられなかった時代。医薬品や食料や建築資材を強奪しコザの人々に配る20歳のオンちゃんは戦果アギヤーの英雄だった。だが、1952年のある日、仲間とキャンプ・カデナを襲撃したオンちゃんは、米兵に撃たれた後に姿を消した。
 後に残されたのは、実弟のレイ(17歳)、親友のグスク(19歳)、恋人のヤマコ(18歳)。真藤順丈『宝島』はここからはじまる、本土復帰前の沖縄の若者たちの、20年にわたるめくるめく流転の物語である。540ページの厚さだが、あっという間に読んでしまったさ。だってね、厚いだけじゃなく熱いんだ。
 あの襲撃事件で3年の実刑を食らい、刑務所では待遇改善を求めて獄内闘争を起こし、出所後は「ごろつき」になった血の気の多いレイ。やはり1年半の実刑になるも戦後のすったもんだに助けられ、琉球警察の警官になった好青年のグスク。女給をしながら教員免許をとり、小学校の教師になった頑張り屋のヤマコ。
 オンちゃんの行方を探す3人の動向を追いながら、物語は占領下の沖縄で起きた実際の事件や、苦渋に満ちた本土復帰運動をウチナンチュの目から描き出す。嘉手納幼女強姦殺人事件(55年)、小学校を直撃した米軍機墜落事故(59年)、基地の弾薬庫に貯蔵された毒ガスの漏洩(69年)。
 後に「コザ暴動」と呼ばれる住民蜂起(70年)を前にしたグスクはその意味を考える。〈最果ての夜を疾走するのは、掛け値なしに無謀で、野蛮で、アメリカーをきりきり舞いさせてきた沖縄人たち。ここにいるのはみんながみんな〝戦果アギヤー〟だ〉
 過去の沖縄戦と南国のリゾート。二つのイメージに挟まれて忘れられがちな占領期の沖縄を鮮やかに描ききった快作。「命」につながる表題の意味をあなたは最後に?みしめるだろう。
    ◇
 しんどう・じゅんじょう 1977年生まれ。作家。『庵堂三兄弟の聖職』で日本ホラー小説大賞。『地図男』など。