長期入院などで星空を見られない子どもたちのために、移動式のプラネタリウムを持って訪問している甲府市の高橋真理子さん(48)が、「星空を届けたい 出張プラネタリウム、はじめました!」(ほるぷ出版)を出版した。5年間に訪ねた病院、施設は百数十カ所で、のべ約8千人が観賞。上映後に子どもたちが見せるさまざまな変化に、高橋さんは「広大な宇宙の中で私たちは奇跡的に生きている、ということを肌で感じてくれるんじゃないか」と話す。
山梨県立科学館で長年、プラネタリウムを担当してきたが、外出が難しい子どもたちに伝えられないジレンマを抱いていた。「来てもらうんじゃなくて、行くんだ」。5年前に独立し「出張」を本格化。立ち上げた「星つむぎの村」のメンバーで全国にいる約100人と協力し、各地を回る。
持っていくのは直径4メートルのエアドーム。中には最大で20人が入れ、満天の星を体感できる。歓声を上げたり、目を輝かせたり。重い障害で体を動かせず、ストレッチャーに乗ってきた高校生は星空が広がった瞬間、無表情から一転、ぱっと目を見開いた。母親は「こんな表情は初めて」と涙を流したという。高橋さんは「その場の全てがエネルギーに満ちる」と言う。
高校生のときオーロラに魅せられ、研究者を目指した高橋さんがなぜプラネタリウムにたどりついたのか。挫折を経験しながら、新たな目標を見つけていく道のりを書いた本には「夢を持って生きる」ヒントもつまっている。(中村靖三郎)=朝日新聞2018年08月25日掲載
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