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現代を生きることは過去と具体的に向き合うこと。岸田繁が読む「プレイボール2」

 記録的猛暑の中、開催100回目を迎えた高校野球夏の大会。決勝で敗れ去ったとはいえ、秋田の公立高校、金足農業の野球は多くの人々に「決して忘れることのできない夏の思い出」を与えたように思う。

 エースの吉田くんをはじめ、準々決勝でサヨナラ2ランスクイズを決めた斎藤くんなど、数々のドラマやエピソードは勿論、現代を生きる高校生たちの野球観を知ることができた。地元出身ナインの泥臭く勢いのある野球を観ていると改めて、野球というスポーツの面白さを思い知らされた。

 高校野球だけではなく、プロも含め野球を題材にした漫画は数多い。「あぶさん」などと共に、その草分け的存在であった「キャプテン」、「プレイボール」は、ちばてつや氏の実弟、ちばあきお氏が遺した不朽の名作である。

 巨匠コージィ城倉氏によって、現代に蘇った『プレイボール2』は、ちば氏による丁寧なタッチとストーリー構築が光る完璧なトリビュート作品であると同時に、城倉氏ならではの具体的で客観的な野球観(監督やキャッチャー目線のそれ)を感じることができる凄まじさに敬服する。昭和時代のアナクロな世界観を容れ物にしつつ、わかりやすい「スポーツ青春もの」としてのカタルシス偏重に陥ることなく、ある意味「原作に忠実に」描かれる。

 そして、野球そのものの具体性と、それをプレイする「予め設定の決められた」キャラクターたちの個性/ほんとうの人間らしさが、淡々と描かれているようで、実は相当具体的に、心情や行動原理が深く描かれている。

 ちば氏による原作の「スポーツ漫画にしてはクールに感じてしまう部分」というのは実のところ、ほんとうは人間らしさとは、現実とはこのようなものである、といった部分の具体性であると思っている。城倉氏は、彼独自の視点や観点からそれに研磨をかけ、予め決められたテーマを基に現代を生きる人々へメッセージをしっかり浮き上がらせることに成功している。

 この作品は、多くの漫画ファン、野球ファンだけでなく、色んな意味で幅広く読まれることを期待せずにいられないメッセージを内包している。