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スーパーフード「ビーツ」は和食にも合う 料理研究家・荻野恭子さんがレシピ本刊行

文:志賀佳織、写真:斉藤順子

ビーツがいま、来ている!?

――最近SNSなどでも、ビーツを使った料理の写真をあげている人をちらほら見かけるようになったのですが、今、ビーツが「来ている」んでしょうか。ビーツとは、そもそもどんな野菜なのでしょう。

 ビーツは地中海沿岸や北アフリカが原産のヒユ科の根菜なんですね。「甜菜糖」の原料となる「てんさい」の変種で、ぎゅっと固くて、肉が紅色、天然のオリゴ糖を含むので甘みがあって、加熱すると旨味が増すだけでなく、加熱しても栄養が減らないんです。ウクライナやロシアなどでは、ボルシチや、サラダやピクルス、煮込みなど、いろいろな料理に使われているんですよ。紀元前1000年頃から栽培されていて、日本への渡来も実は江戸時代と古いんです。

――荻野さんはビーツ料理を手がけられて長いそうですが、最初にビーツを知ったのはいつ頃だったのですか。

 実は中学生時代なんですよ。当時の恩師が「ボルシチ」をご馳走してくれたのですが、それがビーツとの出合いでした。初めての異国の味わいと、あの深い赤い色に魅せられて、ぜひ現地で本物を味わってみたいと思いました。もともと実家が飲食店だったこともあり、食には興味があったのですが、そのときの「ボルシチ」がきっかけで、いつか世界中を食べ歩いて、それぞれの土地の本物の味に出合いたいと強く思うようになったんですね。そして20歳のときからその夢を実現して、ロシアをはじめ世界各国を食べ歩くようになりました。

日本でロシア料理を広めてビーツを流行らせてほしい

――各地でビーツには出合えましたか。

 ロシアでは、ホテルでも一般のご家庭でも、本当にどこでも必ずビーツが出てきました。それほど彼らにとってはなじみの深い食材なんですね。そして、とにかくどこでも出てくるので、私もずーっと食べ続けていたら、体調がすごくよくなってきたんです。もちろん個人差はあると思いますが、私の場合は、まず花粉症が治ったし、便秘も解消したし、肌もすべすべになって、何より血の巡りがよくなるせいか、体が軽くなったんです。寒い国なのに、ひどく寒いと感じることもなくて、「あ、これはいいわね」とロシアの友人に言ったところ、「そうなんだよ。ビーツを食べれば医者いらずって言うんだよ。なのに、どうして日本にはビーツがないの?」と逆に聞かれてしまいました。

 ですから「それは、やっぱり食べ方も知らないし、だいたい需要がないから供給もないということで農家さんも作っていないし……」と言うと、「荻野さん、日本でロシア料理を広めてビーツを流行らせてほしい! ビーツはこんなに体にいいんだから、多くの人に知ってもらいたいんです」と言われました。それが20年前です。

ビーツミルク。ビーツの酢漬けの漬け汁に牛乳を注いだもの。ビーツは乳製品と相性がいい

 実際、ビーツには栄養素がたくさん含まれているんです。あの赤い色はベタシアニンというポリフェノールでアンチエイジングにお勧めですし、天然のオリゴ糖が入っているので、腸内環境も整えます。ほかにもビタミン、ミネラル、カリウム、マグネシウムなど、特に女性の健康には嬉しいものばかりです。

 日本では、やはりなかなか一気には広まりませんでしたが、いろいろな国を回っているうちに、「あ、旧ソ連領だけじゃなくて、ほかの地域でも広く食べられているんだ」ということを知りました。北欧、スペイン、イタリア、モロッコ、メキシコのほか、中国やインドでも食べられているのには驚きましたね。

――最近は日本でも手に入りやすくなってきたのでしょうか。

 そうですね。スーパーフードとしての側面が注目され始めたのでしょうか、近年は全国各地で生産量も上がり、春まきは夏に収穫、秋まきは冬に収穫と、年に2回栽培する農家も出てきました。北海道で多く栽培されていますが、関東近郊の農家の収穫量が上がっていて、南は奄美などでも栽培されるようになっています。デパートの地下をはじめ、近所のスーパーなどでも置くところが増えてきましたので、嬉しいですよね。種類も代表的な赤だけでなく、うずまき状のものや、黄色のものも出回っています。

ビーツの一番おいしい食べ方

――どうやって食べるのがいちばんおいしいんでしょう。

 私が試行錯誤の末にたどり着いたのは、生ですりおろして酢漬けにすることと、ゆでて甘酢に漬け込む方法の2つです。そのまま食べたり、汁を飲むこともできますし、さまざまな料理に使えるんですよ。ビーツは色素の流出を防ぐため、皮のまま丸ごとゆでる方法が紹介されることが多いのですが、これだと1~2時間かかってしまいます。私がお勧めするのは、切ってから加熱する方法。一旦色素が流れても、そのままゆで続ければ、柔らかくなる頃には色が元に戻るんです。

――ボルシチなどのイメージがどうしても強いのですが、日本の食卓にも馴染みますか。

 そうおっしゃる方が多いと思って、今日は敢えて和のレシピをそろえてみました。豚汁、きんぴら、白和えです。ビーツは煮るだけで味が出るので、これは出汁をとっていないんです。水と素材と塩だけ。きんぴらも、みりんは要りません。ビーツはオリゴ糖なので煮ると甘くなる性質があるので、ごま油と水と塩だけです。

ビーツの豚汁と、ビーツのきんぴらとビーツの白和え、伏見南蛮のしょうゆ漬け

――とても出汁が入っていないなんて思えないほど、コクがあって、おいしいです。

 そうでしょう?(笑) 豚汁は、今日はお味噌を入れましたが、ベースになるものを作っておいて、カレー粉を入れればお家カレーにもなります。

荻野さんが宝物だという約40年前に刊行された分冊百科『週刊朝日百科 世界の食べもの』

 私は世界各国の本物の味を体験してきましたが、それを言うと、よくミーハーなグルメ旅行のように受け取られることが多くて困ってしまうのですが、決してそういうものではないのです。私が世界を回りたかったのは、行く先々で世界の人々の食がつながっていることを知り、それを研究するため。また文献などのない地域に行くことで、実体験を踏まえた家庭料理を研究するためです。ビーツは、さまざまな気候条件で育つ、今後の食糧難を助ける役割を担うかもしれないスーパーフード。その意味でも、今こそみなさんに広めたい気持ちがあります。ただ、それをそのまま伝えるのではなく、日本の家庭になじむものとして紹介してこそのレシピだと思っています。今回出版した『ビーツ、私のふだん料理』には、家庭で無理なく作れるレシピばかりを集めました。ぜひ、味わっていただきたいですね。

ビーツのジャムに、生クリームとヨーグルトを入れて固めたデザート