今、書店の写真集売り場には、数々の絶景写真集が並んでいるが、より綺麗(きれい)に見えるように色や光が過剰に補正された写真が少なくない。絶景に謝れ、と思う。絶景とは、月日の積み重ねをそのまま味わうものだ。
だから、自分にとっては、断然こっちが絶景である。雑誌「本の雑誌」の巻頭連載「本棚が見たい!」を中心に作家・漫画家・デザイナーら34名の本棚をひたすら写しただけの本は、いつまでも完成しないサグラダ・ファミリアのごとく、増殖していく本棚の今現在を切り取る。洒落(しゃれ)た雑誌の読書特集のように、本棚の前に座って能書きを垂れる家主の写真はない。オマエよりも本棚が見たいのだ。その欲に存分に応えてくれる。
断捨離が叫ばれる世の中、持ち運びの利便性ばかりが商売を生む世の中に逆らうように、ひたすら本を溜(た)め込む人々が、自分のためだけに作り上げた整然と雑然。几帳面(きちょうめん)に50音順で並ぶ本棚があれば、震度2程度で崩れ落ちそうな、不安定に積み上がった本の山がある。
残しておきたい本って、何がしかへの偏愛の結実であることがほとんどだが、その偏愛同士が仲睦(むつ)まじそうに、あるいはそっぽを向きながら隣り合っている。意図的か偶然かなんて分からないけれど、「なぜ、この本の隣にこの本があるのか」という問いをぶつけながら眺めていくと、いくらでも時間が経つ。自然ではなく、人間が並べて積んだ地層に思いを馳(は)せるなんて、これほど愛(いと)おしい絶景もない。
美しき螺旋(らせん)状の本棚。本が多いのがバレて大家から隣の1階に移るように命じられた、辞書だらけの本棚。等身大の梅宮辰夫像が見守る本棚。一切の日焼けを許さない開閉式の本棚。もうすでに崩れている本の奥で、誰も到達できなくなった本棚。
あの人がいかにも読みそうな本だけでなく、絶対に読まなさそうな本もささっている。なぜこの本なのか。想定内と想定外が入り乱れる。ウソのない絶景は、とにかく見飽きない。武田砂鉄(ライター)
◇
本の雑誌社・2484円=5刷1万3千部。2月刊行。SNSで写真が話題になり発売前に重版決定。30~40代に人気で「本離れと言われるが、本棚には憧れがあるのかも」と担当者。=朝日新聞2018年9月8日掲載
編集部一押し!
-
売れてる本 高橋和巳『子は親を救うために「心の病」になる』 悩むあなたは「生き直せる」 香山リカ
-
-
人気漫画家インタビュー 「スキップとローファー」高松美咲さんインタビュー 原点は司馬遼太郎作品 メッキが剥がれた先にある人間関係を深く描く 加治佐志津
-
-
一穂ミチの日々漫画 【一穂ミチお薦め】友情を考える漫画特集 それぞれの人生、かけがえのない人間ドラマ 一穂ミチ
-
小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。 「時の家」鳥山まことさん 芥川賞受賞のカギは自分探し。「みんなも書いたらええのにな」小説家になりたい人が、芥川賞作家になった人に聞いてみた。(特別版) 清繭子
-
展覧会、もっと楽しむ 「エリック・カール展 はじまりは、はらぺこあおむし」開催 日本語版出版から50年 ロングセラー絵本の原画を全公開 加治佐志津
-
インタビュー 「すしを極める」すし作家・岡田大介さんインタビュー 釣った魚の握りずしから郷土寿司まで、“本当に旨い食べ方”は? 江澤香織
-
コラム 「海をわたる言葉 翻訳家ふたりの往復書簡」中江有里さん書評 出逢いの不思議が生んだもう一つの〝家族〟 PR by 集英社
-
トピック 【プレゼント】柄谷行人さん最新作「私の謎 柄谷行人回想録」好書好日メルマガ読者10名様に PR by 講談社
-
インタビュー 平石さなぎさん「ギアをあげて、風を鳴らして」インタビュー 描いてわかった「シスターフッド小説」の魅力 PR by 集英社
-
インタビュー 江國香織さん「外の世界の話を聞かせて」インタビュー 頭の風通し良く、気持ちさっぱり自由になって PR by 集英社
-
インタビュー 【サイン入り本プレゼント】一木けいさん「嵐の中で踊れ」インタビュー 避難所で起きた再生の群像劇 PR by NHK出版
-
インタビュー 湊かなえさん「暁星」インタビュー 作家として「言葉」に向き合い、新たな扉開いた PR by 双葉社