近代立憲主義は、世界観をめぐる血みどろの闘争の末、西欧で生まれた。価値は比較不能で、何が正しいか、決まらない。多様な価値観を平和的に共存させる枠組みが憲法で、人が生きる意味を語らない。
こうした従来の立憲主義の理解に正面から挑み、新たなかたちを模索するのが、江藤祥平・上智大准教授の『近代立憲主義と他者』(岩波書店・3672円)である。
憲法96条改正提案、集団的自衛権行使容認への政府解釈の変更……。立憲主義は危機的状況だ。このままでは「化石化」してしまうと江藤は考える。「他者の不在」が原因で、活力を失っているためだという。現象学を方法論として使い、江藤は立憲主義に「他者」を取り入れようと試みる。比較不能な複数の他者をあえて比較し、痛みを引き受けよ。平和を希求する「選民」として、憲法9条を持つ日本人は責任を果たすべきだ――。新たな憲法の「物語」を立ち上げようとする、江藤の議論は熱い。
取り扱いを間違うと大やけどしかねない劇薬である。(編集委員・豊秀一)=朝日新聞2018年9月15日掲載
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