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LGBTへのヘイトは自殺につながる トランスジェンダー男性・遠藤まめたさんが自叙伝

――小学生の時、一人称について悩んだのが、最初の葛藤だったそうですね。

 作文の授業の時に書けなかった。今は大人なので「わたし」って言いますけど、子どもの頃は「ぼく」が男の記号で、「わたし」というのが女の記号。非常に困りました。

――その前は、「リカちゃん人形」に嫌悪感を抱いていたとか。

 たぶん、女の子でも「リカちゃん人形」を好きになれない人はいると思う。それが、性別による違和感なのかと言うと、厳密にはよく分からないんですけど。とにかく「自分が好きじゃないもの」を、喜ぶだろうと思って皆、好意で買ってきてくれる。良かれと思ってやってもらっても、困るということが続きました。

――男性であるはずの自分が制服のスカートを履くことを強いられるのに耐えられず、高校生の時、先生に勇気を出して話しに行った遠藤さん。その時、無理解な言葉を浴びせられてしまった。その時まで遠藤さんが、どれだけ心の準備をして意を決して臨んだのか、教師は想像できなかったのでしょうか。

 こんなに「駄目」とは思わなかった。ずっと言われたんですよ、「思春期だから」って。先生もそうだし、親もそうだし。「思春期だし、子どもだから」って。でも、他の子はそんなことで悩んでいないし、「子どもでもさすがにそれは分かるだろ」とはすごく思ったりして。子どもであることは損だなってずっと思っていました。早く大人になりたかった。

――当時って、少しずつ性的少数者の存在に対する理解が進み始めた時期でしたか?

 「性同一性障害」をテーマにしたドラマ「3年B組金八先生」(TBS系)が放映された程度ですね。

――レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル(両性愛者)、そして、生まれた時の体と自認する性別が一致していないトランスジェンダー。一括りに「LGBT」と言っても、立場はそれぞれ違うし、相互理解が進んでいるとは言いがたい現状がある。こんなにも自分自身が悩み、生きづらさ、息苦しさを感じているのに対し、他の当事者たちが気付きづらい面がありますね。

 じつは最初、「皆も同じようにスカートが厭なんだろうな」と思っていたんです。全然情報が無かったので。女子だけの学校で皆も頑張って「女の子」をやっているんだから、自分もやらなきゃいけない、と。だから、他の人と比べて自分は大変だという認識は、初めはなかったんです。「皆も大変なんだろう」と思っていて。

 ただ、高校の時に、先生が言っていた言葉で印象的だったのは、「今は子どもだから温室だ。社会に出たら厳しいよ」。でも、大人になって思うと、子どもの時の方がよほど大変だった。大人はいろんなことができるし、いろんな所に行くことができる。子どもは一つの場所から逃げることができない。だから「先生の言葉、それは嘘だよ」って言いたいです。

――学校の中では、友達が遠藤さんを支えて下さったようですね。胸を打つのは、卒業式の制服をめぐり友達が奮闘するエピソード。実を結ばなかったけれど、周囲の温かい支えがあった。

 あの話は、卒業後5年ぐらい経って、知ったんです。友達と家で飲んでいる時に、「じつはあの時こんなことがあって」と言われて。皆、私よりも怒っていたんですね、先生がトンチンカンなことを言ったりすると。

 大学入試センター試験の時に受験票を書くじゃないですか。性別欄があって、先生、「間違っても男って書くなよ、ここには女しかいないんだから」って。冗談として教室全員に対して言ったんですけど。隣に座っていた子がメチャクチャ怒った表情をしていました。それは印象的でしたね。

――自分のことのように怒ってくれた。

 ありがたかった。友達で(自分自身がカミングアウトをしたことに対し)ダメな人はひとりもいなかった。皆、すごくよく分かってくれたんです。

――若者の当事者たちを繋げる活動に、学生の時から心血を注いできた遠藤さん。「友達の死」という経験が、当事者の中ではじつに多いですね。LGBTが自殺のハイリスク層であること。そこから自殺対策への働きかけを政治・行政に訴えるようになりますね。

 ある友人のことをこの本で書いています。他にも何人もいるんですけど。すごくショックだった。ある調査によると、ゲイ・バイセクシュアル男性5731人を対象としたインターネット調査(2005年実施)では、全体の65.9%が自殺を考えたことがあり、14%が自殺未遂の経験をしている。政治家に一番知ってほしかったのは、「こんなに大変なんだ」ということ。「LGBT」「多様な性」などと言って分からない人だって「自殺の問題」と言えば反対する人は誰もいないんですね。「こんなに亡くなっている人がいて、何もしないんですか」と言えば、「何とかしなきゃ」って。国の自殺対策ガイドライン「自殺総合対策大綱」に盛り込むことができたのは、LGBTというよりは命、人権の問題として重要でした。

――「ひとは悲しみなしに、人権活動家になんてならない」、その一文が胸に突き刺さります。ちょうどこの本を書き上げたあたりで、「生産性」うんぬんなどという言葉を放った国会議員の月刊誌論文掲載が問題になりました。自民党本部前には抗議デモに行ったのですね。

 杉田水脈(みお)議員の発言は最初、「まあ、そういう人もいるだろう」程度に思っていたんです。かつては(同性愛者へのヘイト発言を繰り返した)石原慎太郎氏もいたし。ピュアに傷ついたりはしなかった。ああいう人はヘイトスピーチで注目を集め、人気を取りたいだけだから、しょうがないと思っていた。

――それがなぜ。

 自分がやっているLGBT、または「そうかも」と思う人も含めた若者が集まれる場「にじーず」の10代の子たちが、よせばよいのに彼女のYouTube動画を見て、どんどん傷つくわけですね。「自殺率の高さが……」のくだりで笑いが起こる動画。最初、ああいう信じられないものを見ると、「何か裏があるんじゃないか」と思って次の動画も見てしまう。それで傷ついたり、「眠れない」と訴えたり。それからTwitter。普段、学校では自分のことを言えなくても、ここなら友達がいるから安らげる。ところがそこでもガンガン、杉田議員の動画が流れてきた。学校の友達同士で繋がっているLINEでも「こんな酷い人がいる」と動画が流れている。

 見たくないわけですよ、安らぎの場のはずのインターネットで。「なんでそんなことを言われなきゃいけないの」と。思春期の揺らぎ、と言われてしまうと、思春期真っ只中にいる彼らは何も言えなくなる。子どもたちが傷ついているのを見て、「何てことをしてくれるんだ」と。せっかく居場所を見つけ、自分たちが一所懸命励ましているような子たちに対し、台無しじゃないですか。それに対して怒りました。

――それまで、実際に傷つく場面と言うのは、彼ら彼女らには無かったのでしょうか?

 人によるんですけど、普段は全然うまくいっているのに、社会ではそうじゃない人がいるということが分かってショックを受けている子どもがいた。普段、学校では受け入れられなくて、そこに「世の中の親分」みたいな政治家が現れて、こんなことを言っていて、「えっ?」みたいな。人によって違いますが……。酷く傷ついた子もいて、「何をしてくれるんだ」と。

――想像よりもはるかに深刻なのですね。

 「これはまずい」と。「にじーず」には10~20代前半の若者が30人以上、スタッフを入れて40人ぐらいいるのですが、何をしてくれるねん。子どもたちを見てそう思いました。 

 子どもたちの一番の味方は子どもたち同士。「にじーず」で親友になって、何でも喋れている。私はその「場」をつくる。そんなに世話焼きはしていないです。15歳以下のグループで、主にトランスジェンダー当事者と家族の会には、5歳の子もいます。

――あとがきで、「読んだ人が何らかの巻き添えを食らうことを目的としている」という言葉がドキッと強い印象。「巻き添え」って言葉にはどんな思いを込めたのでしょうか?

 他人事としてではなく、「自分もそんなことがあったな」と。トランスジェンダーじゃなかったとしても、何かしら照らし合わせて化学反応があれば良いなと思って書きました。基本、この本、ちょっと「笑かし」にかかっているところがあって。楽しく読んでもらい、少しでも「刺さる」ところがあればと思っています。

――読後感がどこか爽やかなのは、随所にちょっとした「遊び」の文言が散りばめられているからかも。今、取り組んでおられることは。

 「LGBT医療福祉フォーラム2018」です。当事者たちが医療福祉機関でどのような経験をし、どんなニーズを持ち、現場はどんな実践ができるのかを共有するのが目的です。ぜひ医療福祉の各現場で働いている人たちや関心のある人に足を運んでいただけたら。

 実際に、病院に行って何も言えない、という経験をしている人がたくさんいます。トランスの人はトラブルになるのが厭で、病気になっても病院に行かない人もいるんですね。福祉分野でも、自分が何か困って助けてほしい時に、自分の状態を言いたくない。言っても大丈夫か分からないから支援に繋がることを諦める。結局、自分で何とかしなきゃいけない。そんな風に考える人が結構多いと思う。生活や生命にかかわる問題だと捉えてほしくて、いま準備に追われています。