――「ひひひひ……おまえ うまそうだな」。この一言をきっかけに、アンキロサウルスの赤ちゃんにお父さんと間違われてしまうティラノサウルス。「おまえうまそうだな」は、勘違いから始まる、恐竜たちの疑似親子関係を通して、父と子の愛を描いた一作だ。
「おまえうまそうだな」は、子どもたちや大人たちが「大金持ちはすごい人」と思っていることに対して僕自身が疑問を抱いていて、そのことを描いてみようと思って作りました。豪邸に住んでいるからすごいとか、高い外車に乗っているから偉いとかって、僕は全然思わなくて。
お金やモノ、権力や名誉などの象徴としてキャラクターは何がいいかなと考えた時、「あ、恐竜だな」と思ったんですね。恐竜の中でも一番強いティラノサウルス。
そして、それとは対極の存在としてアンキロサウルスの赤ちゃん「ウマソウ」を登場させました。赤ちゃんは、お金も持っていないし、力もない。何にもないんですよ。ただ、無邪気で優しさと思いやりを持っているだけ。
そんなウマソウとティラノサウルスが出会ったのを見た時に、「人が本当に素敵だなと思うのはどっちかな」と、そう思いながらこの作品を作りました。
――「おまえうまそうだな」を筆頭に、親子の愛、時には友情を描いてきたティラノサウルスシリーズは、今年で15周年を迎えた。シリーズの中でも、「おまえうまそうだな」は宮西さんにとってシリーズの原点であり、父親との思い出が詰まった特別な一作だという。
14年前に父が亡くなったんですね。その父が唯一、僕の絵本で褒めてくれたのが「おまえうまそうだな」だったんです。それまでは、全く何も言わなかったのに。当時、入院していた父の傍らで、ティラノサウルスシリーズの2作目を描いていた時に言ってくれたんです。「達也、『おまえうまそうだな』は面白い本だな。あれは感動するぞ」って言われて、うれしくて。続編は見せることができなかったけど、「おまえうまそうだな」を父に見せられて本当によかったなって思います。
――宮西さんの絵本づくりはテーマを決めるところから始まる。そこから、キャラクター、ストーリーへと広げていくのがいつものやり方だ。
ストーリーから作ろうとすると、やっぱり作り物になって嘘っぽくなるんです。でも、テーマさえ決めてしまえばブレない。「おまえうまそうだな」は、続編を作る気は全くなかったんですよね。一話完結でよくできたなと思っていて。でも、シリーズ化することになって、よく考えてみたら、これまでの恐竜の絵本って「強い」とか「かっこいい」とかが描かれていたんですけど、「おまえうまそうだな」は恐竜なんだけど、優しさとか、思いやりとか、愛とか、内面を描こうと思って作ったんですよね。そのテーマはシリーズになってもブレない。僕は続編も恐竜を通して、母親の愛や父親の愛、友情といった色んな内面を描いてみようと思ったんです。だから、ティラノサウルスシリーズは15冊も描くことができたんだと思います。この1冊目のポリシーだけは守っていきたいですね。
――「絵本は自分の絵日記みたいな存在」と語る宮西さん。自分の経験や自分が思ったこと、感じたことを主に描いてきた。
リアリティーがないと、人は笑ったり感動したりしないんですよ。僕は子どもを意識して絵本を作るということはしなくて、僕の経験してきた感動を分かってほしいっていうのが、まずあるんです。子どもに分かる言葉で作ってはいるけど、「これは子どもには分からないだろうから」って、内容を変えたりはしたくない。すぐに全部分からなくてもいいから、何かを感じてくれればうれしいですね。
リアリティーという意味では、ティラノサウルスシリーズには、ティラノサウルスと同時代の恐竜しか出てきません。だから、白亜紀後期の恐竜を必死になって探しました(笑)。
時代だけじゃなくて、生態にも気をつかって描いています。たとえば、言葉の違う恐竜とティラノサウルスとの交流を描いた「わたしはあなたをあいしています」という作品には遠く離れた場所にいたという恐竜を登場させたり、「あなたをずっとずっとあいしている」には子育て上手だというマイアサウラをお母さん恐竜として出したり。子どもたちも恐竜が好きだから、図鑑を見ますよね。そうすると、現実とリンクするじゃないですか。絵本の中のことは本当のことだったのかもしれないと思ってもらえるんですよ。
――ティラノサウルスシリーズは、アメリカやフランス、中国や韓国でも翻訳され、各国で受け入れられている。
僕は恐竜とかウルトラマンとかを描いているように見えるけど、突き詰めていくと「人間」を描いているんです。人間性や内面を描いているから、日本以外の国でも受け入れてもらえるんだと思います。
文章だって絵だって、僕はたいして上手くないんだけど、一生懸命にやる。生半可な気持ちで絵本は作りません。人間ってこうなんだろうなとか、優しさってこういうことなんだろうなって、突き詰めて考えて作る。それを分かってくれる人が、こうして応援してくれるんですよね。15年の間に読者の方々が大人になって、「ティラノサウルスシリーズを好きだった」と言ってくれるってことは、やっぱり子どものときに何かを感じていてくれたからなんですよね。本当に感謝しかありません。
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