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「自分と違う人」を面白がってもいい 絵本作家・ヨシタケシンスケさんが新刊記念トークショーを開催

文:根津香菜子、写真:斉藤順子

物語の舞台を宇宙にした理由は

伊藤亜紗さん(以下、敬称略)私の本では、健常者と視覚障害者の世界を書いていますが、ヨシタケさんの本では、さらに世界が大きくなって、主人公が宇宙に行って、後ろも見える三つ目の人も出てきますよね。

ヨシタケシンスケさん(以下、敬称略宇宙だったら「普通」という概念がなくなるなと思い、僕はさらに世界を大きくすることで、「人ってみんなバラバラだよね」ということまで話を広げられたらいいなと思ったんです。それぞれに違うところがあって、そのことに「へーっ!」という興味がわいてくれれば、いいなと。目の見える人と見えない人、歩ける人と歩けない人、大人と子ども…など、人はそれぞれどこか違うんだ、ということの着地点を見つける面白さを伝えられたらと思いました。

「自分と違う人」を面白がってもいいじゃない!

ヨシタケ:僕、小さいころに視覚障害の人が白杖を持って歩いているのを見て「面白そう!」って言ったら、母に「面白がって見てはダメ!」とすごく怒られて、「自分は悪いことをしてしまった」と思ったんです。その時は何で怒られるんだろう?って思ったんですが、先日、僕の息子もテレビで視覚障害の人を見て「面白そう!」って言ったんですよ。「やっぱりそう思うよね~」って(笑)。

知らないがゆえに興味を持つ子どもの「面白そう」という純粋な好奇心に対して、「ダメ!」しか答えがないわけではないと思うんです。その気持ちに対して、どう答えるべきなのか。どうすれば絵で表すことができるんだろう?と考えました。その答えの一つとして、「違っていても、お互いが分かり合えばいいね、教え合えばいいね」というメッセージをこの本に込めました。

伊藤:私も子育てをしていると、「ダメ!」の続きがあったかも、と後になって思うことがよくあります。でも、日々の忙しさの中でどうしてもその都度、ゆっくり説明する時間が取れなくて。そんな時に、絵本は子どもとじっくり話すきっかけを作ってくれますよね。

ヨシタケ:本当は時間をかけて「この間のことだけど、本当はこうなんだよ」と、教えられたらと思うんですけどね。だから僕は、「そんなときは絵本をどうぞ!」と言いたいです。必要な配慮はしつつ、大人語を子ども語に変換して、メッセージを伝えるためのコンテンツになるものが絵本だと思っています。

ヨシタケさんの絵本に「そうだん」役として関わった伊藤亜紗さん

お互いの同じところと違うところを想像してみる

伊藤:私、啓蒙的で、お説教するような子供向けの本が昔から苦手で、反発していたんです。

ヨシタケ:僕もそうです。だからこの本を作る出発点でそこは共通していましたよね。僕は、「読んでいて楽しい」本を作ることが絶対条件なんです。「少年ヨシタケ」が読んでニヤニヤするような(笑)。

伊藤:ヨシタケさんの絵本で、一番大事で物語を支えているのは、細部の書き方ですね。例えば、三つ目の宇宙人は、テストの時に後ろや周りもキョロキョロと見えてしまうので、二つの目は隠さなきゃいけないとか。実際はありえないんだけど実感がわいて、フィクションだけど、リアリティがあって。読んでいる人が、自分事として考えるきっかけの種をまいていますよね。

ヨシタケ:三つ目だからこその苦労もありますよね。もちろん、見えないことで出てくる心配事もあるんだけど、僕たちは後ろに目がないことで、背後のことは考えなくて済む。

伊藤:私は研究者として、この三つ目の身体が気になってしまって(笑)。「三つ目があったら」というワークショップを開いたんです。そしたら結構面白い意見がたくさん出て、「三つ目だと“目が合う”ってどうなるの?」とか、「三つ目があるとウインクって複雑だな」とか。「こうだったら」と考えて、想像する面白さですよね。

ヨシタケ:僕はこの絵本を書くにあたって、視覚障害者の方に取材はせずに、最後まで「目の見えない人」のことを自分の中で想像して作ったんです。ただ、伊藤さんの本があっての絵本なので、視覚障害に対して知識のない僕が「こういう風に考えているんですが、間違ってないですかね?」と伊藤さんに相談して、確認してもらいながら出来上がりました。そうやって書いていく中で僕が思ったのが「みんなどこか違うけど、同じところを探しながら、違うところを面白がればいいんじゃない?」っていうことだったんですよね。

 後半の質問タイムでは、女の子から「目の見えない人は、どうやってコップに水を入れているんですか?」という鋭い質問が出た。

伊藤:コップに水を入れているときの音で、大体の量がわかるそうです。聴覚で判断する人が多いですね。あとは、指をコップの中に入れてチェックする人もいますよ。

ヨシタケ:私たちが目をつぶれば、目の見えない人になる、というわけではないんです。伊藤さんの著書の中では、四本脚の椅子から一本脚を取った三本脚の椅子と、元々三本脚でバランスをとっている椅子の違いを例に書かれています。この部分については絵本に入りきらなかったのですが、絵本の中で一輪車や三輪車など、様々なタイヤの乗り物を書いているページがあって、「いろいろな体の人がいる」ということを、乗り物で例えています。

普段思いついたことをイラストにしてメモ帳に書き留めているというヨシタケさん。その絵の細かさに、会場からは驚きの声があがった

会場に展示された絵本の原画。来場者の多くが食い入るように見ていた