「泥」
森の中にある私立学校から、3人の生徒が行方不明になる。1人は皆勤賞の優等生タマヤ、もう1人はタマヤと通学している2歳年上のマーシャル、残る1人はマーシャルをいじめていた転校生チャド。そして、森で奇妙なねばねばの泥に触れたこの3人から、不思議な病が広がっていく。この病とは何なのか? 何が原因なのか? 治療方法はあるのか? 3人それぞれの物語にからむのは、粘菌を利用したクリーンエネルギーについての聴聞会の証言と、不思議な数式。謎めいた起伏のある展開で読者をひきつけ、しかもバイオテクノロジーについて考えさせる見事な作品。怖いけれど面白いこの物語からは、作者が子どもに寄せる信頼感も感じ取れる。(翻訳家 さくまゆみこさん)
「おどりたいの」
こうさぎには気になってしかたのない場所があります。それはバレエ教室。ある晩、勇気を振り絞って扉を開けると、人間の先生はびっくりしながらも優しく迎えてくれました。「おどりたい!」という、こうさぎのひたむきな思いがまっすぐで、大好きなことに全身全霊で打ち込める幸せがあたたかく伝わってきます。(丸善丸の内本店児童書担当 兼森理恵さん)
「給食アンサンブル」
今どきの中学生の生活をリアルに描き出す六つの物語が、給食を通してそれぞれに交錯し合うところが見事で面白い。お嬢様学校から公立中学にきたことを知られたくない美貴、童話の本ばかり読んでしまうのを気にする桃、運動神経抜群で人気者の雅人などが抱える悩みは現実味を帯びていて共鳴しながら読める。(ちいさいおうち書店店長 越高一夫さん)=朝日新聞2018年9月29日掲載