「アフター・ヨーロッパ ポピュリズムという妖怪にどう向きあうか」書評 守勢に回ったリベラル・デモクラシー
評者: 西崎文子
/ 朝⽇新聞掲載:2018年10月06日
アフター・ヨーロッパ ポピュリズムという妖怪にどう向きあうか
著者:庄司克宏
出版社:岩波書店
ジャンル:政治・行政
ISBN: 9784000612869
発売⽇: 2018/08/03
サイズ: 20cm/126,6p
アフター・ヨーロッパ ポピュリズムという妖怪にどう向きあうか [著]イワン・クラステフ
冷戦直後の欧米では、イデオロギーの争いは終焉し、リベラル・デモクラシーが普遍化するとの楽観論が広まった。呼応するように、EU加盟国は12から28に増大し、統合も深化した。それから約30年。欧米ではポピュリズムが台頭し、リベラル・デモクラシーは守勢に立たされている。EUの未来にも暗雲が漂う。
ブルガリア出身の著者は欧州危機の原因を「人口動態」に見る。冷戦後の楽観論が見落としたのは「人の移動」、特に中東欧から西欧へと流出する人々の存在だった。その一部は成功して世界主義者に加わるが、現地に留まる人々との間には深い溝が生じた。
人口喪失を恐れる中東欧諸国にとって、EUの難民政策は脅威だ。民族・宗教の異なる難民や、彼らを庇護する世界主義者はわれわれの生活様式を脅かす。そう感じる人々は、民族や国民への忠誠を叫ぶポピュリストを歓迎するのだ。
短い中に、思考の糧が多く含まれた好著である。