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僕らの特徴を生かした競技で金メダルを ウィルチェアーラグビー・今井友明さん(後編)

文:熊坂麻美、写真:有村蓮(上の写真は日本ウィルチェアーラグビー連盟が提供)

>漫画「ダイヤのA」の魅力を語る前編はこちら

――ウィルチェアーラグビーのプレーヤーは各自の持ち点によってオフェンスとディフェンスに分かれると聞きました。今井さんはどちらですか?

 僕の持ち点は1.0で、7段階あるうちの下から2番目。だいたい1.5点くらいまでの選手がローポインターと呼ばれ、ディフェンスが主な役割になります。障がいが軽度なハイポインターの人は、素早く動いたりパスを回したりして得点に絡んでいきます。ローポインターは、壁をつくってハイポインターを守りながらゴールをお膳立てするポジションです。

 ウィルチェアーラグビーはスペースの取り合いがとても重要なので、相手が自由に動けるスペースを減らせば得点を防げるし、逆に味方が自由になるスペースを確保できれば、安全にパスを回したり走り込んだりして得点につながります。

――どうやってスペースを確保するのですか? 相手の選手を力で押し出すとかですか?

 もちろんパワーも必要ですが、車いすの特性を生かします。競技用の車いすはそれぞれの選手の障がいや特徴に合わせてフルオーダーでつくられていて、その形状は大きくオフェンス用とディフェンス用で分かれています。僕たちローポインターの車いすはフロントにボックス型のバンパーがついていて、それをうまく使って相手の車いすの動きを封じ込めることができます。バンパーを押し当てる角度でも相手の動きを抑える力が変わるため細かいチェアワークが求められるし、戦略的な思考も必要。タックルと比べるとかなり地味ですけど(笑)、ボールのないところでの攻防にもぜひ注目してもらいたいですね。「詰将棋」に例えられるくらい、実は緻密な競技なんです。

――ウィルチェアーラグビーの漫画『マーダーボール』を読んで知りましたが、男女混合の競技なんですね。びっくりしました。

 激しい競技なので、驚かれる方は多いですね。日本代表にも女性プレーヤーがひとりいますよ。この競技はコート上の4人の持ち点の合計を8点以内にするルールがありますが、女性がひとり入ることで合計が0.5点上乗せできるので、その分、障がいの軽い選手を増やすことができるんです。対戦相手や作戦によって4人のラインナップを変えていくことも大事な戦略のひとつなので、選手の車いすの形状の違いや、女性がいるかいないかにも注目して見てもらえるとおもしろいと思います。

――今井さんのウィルチェアーラグビーとの出会いを教えてください。

 所属するクラブ「RIZE CHIBA」のチームメイトに誘われたのがきっかけです。始めたのが2009年なので、もうすぐ10年。僕はそれまで、腕にも障がいのある人が対象のツインバスケットをやっていたんですが、これは日本発祥の競技なのでいくら頑張っても日本一が最高。「ラグビーなら世界一を目指せる!」という殺し文句で勧誘されました。

 初めて見たときは、なんて野蛮な競技なんだと驚きました(笑)。プレーヤーが嬉々としてぶつかり合っているけど、何が楽しいのかわからなかったんです。だから最初はバスケと並行してやっていましたが、さっき言ったような派手なプレーの裏にある緻密な部分に気づいておもしろくなって、ラグビー一本に。タックルの衝撃も今では快感になりました。

――ぶつかるとすごい音がします。痛くはない?

 頑丈な金属同士がぶつかり合うので交通事故レベルの衝撃と言われています。でも当たっているのは車いすなので、体への痛みはありません。強い衝撃が体に響いてくるのがおもしろいんですよ。とはいえ、敵からのタックルで転倒してファールを取られると、コート内は4対3になって相手チームが有利になってしまうし、僕のように障がいの重い選手は一度スピードが落ちると、そこからトップスピードに戻すのが大変だから、タックルを避けて動くことも大切になります。

――ケガで障がいを負ったのは中学生のときと伺いました。どうやって乗り越えられたのですか。

 友達と遊んでいてケガをしたんですが、まだ中学3年だったのもあって最初はなかなか受け入れられませんでした。卒業式までに治すつもりでいたけど、リハビリを続けるうちに治らないことがわかって、それでふて腐れて。でも、友達がすごく苦しんでいたのを知っていたから、このままじゃいけないという思いもあった。病院で同じような障がいを持つ人たちが必死でリハビリしている姿にも励まされて、自分が気持ちを吹っ切って一生懸命やることで、友達や家族を安心させたいと思いました。それが大きいですね。

――周りの大事な人のために、という気持ちが強かったんですね。

 そうですね。自分のことだけを考えていたら、たぶん頑張れなかった気がします。高校は養護学校に行って、陸上を教えている先生のもとで少し陸上をやりました。それはそれでおもしろかったけど、僕はもともとサッカーをやっていたので、自分のプレーで味方を生かしたり補い合ったりできるチームスポーツが好きなんです。それで高校卒業後に就職先の先輩に誘われてツインバスケットを始めて、その後ラグビーに転向したのです。

――ウィルチェアーラグビーを始めて4年後には日本代表入りされました。今井さんの好きな漫画『ダイヤのA』でも、投手がエースナンバーを背負うことの大きさが描かれていましたが、日の丸を背負う重みはやっぱり力になるものですか?

 日の丸のついた代表ユニフォームは本当に特別なもの。袖を通せることを誇りに思うし、試合前に流れる国歌を聞くと、集中力が高まって戦う気持ちが湧いてきます。コートに立ったらベンチのメンバーや代表入りしていない選手の分まで必死に戦う。ベンチにいるときは声を出してコートにいるメンバーをサポートする。コートを離れた場面での普及活動も含めて、〝日本代表としての役割〟を果たすことをいつも考えています。

 日本チームは世界の上位で戦える力をつけてきましたが、それはこれまでの代表選手や関係者の方々が普及や強化を積み上げてきた歴史があってこそ。僕らも新しい歴史をつくりながら、若手につないでいかなければとも思っています。こういう自分の気持ちとリンクするようなエッセンスが『ダイヤのA』には詰まっているんですよね。だから大好きなんだと思います。

――優勝した8月の世界選手権では、予選で一度オーストラリアに負けています。そこから、どうやって立て直したのでしょうか。

 予選ではオーストラリアに13点差をつけられて負けましたが、準決勝進出は決まっていたので、気持ちを切り替えました。準決勝の相手は、大きな大会でまだ一度も勝ったことのないアメリカ。試合前に選手だけで集まって、チームのいいところを挙げてモチベーションを高め、スタッフがまとめた「アメリカ対策」を入念に確認して試合に臨みました。それが見事にハマり、アメリカのプレーを封じて5点差をつけての完全勝利でした。

 決勝のオーストラリア戦は、序盤リードしていて後半に逆転されてしまった。いつもの流れだと、そこでずるずる離されてしまうけど、その日は集中力を切らさずに粘って、最後に再逆転して勝ちました。チームの結束力も高まったし、予選に負けたことも込みで、東京パラリンピックにつながるいい経験ができました。

――日本チームのいいところ、強みはどんなところですか。

 選手層が厚いところです。これまでは一部のハイポインターに「おんぶにだっこ」だったけど、それ以外の選手や若手が成長し、とくにローポインターのレベルが上がっていると思います。ウィルチェアーラグビーは交代に制限がないので、疲労具合や戦術によって、選手を入れ替えますが、現状だとどの選手が出ても遜色なく戦える。それぞれの得意なプレーを生かしながら、コート上の4人が常にハードワークできるのが強みです。

――今井さんたちの活躍があって、競技の知名度が高まっているように感じます。来年、東京で行われるラグビー・ワールドカップの期間中に、ウィルチェアーラグビーの大会もあるんですよね。

 はい。日本を含む世界ランキング上位8か国が出場する「ワールドチャレンジ」が同じく東京で開催されます。その大会で優勝して、東京パラリンピックで金メダルを獲るのが目標です。知名度に関してはまだまだなので、講演活動やイベントなどで引き続き普及していけたらと思っています。

 あまり知られていませんが、ウィルチェアーラグビーは四肢麻痺といって両手両足に障がいがないとできない競技です。つまりカッコ良く言えば、僕たちは「選ばれしもの」。自分たちの特徴である障がいを生かした競技のなかでどれだけ輝けるか、挑戦でもあると思っています。僕たちのプレーを生で観戦して、野性的かつ緻密な競技の魅力を楽しんで盛り上がってもらえたらうれしいし、同じ障がいを持つ人に「自分にもできるかも」と思ってもらえたら、もっとうれしいです。