国際法学者・横田喜三郎の評価は立場により異なる。戦前、国際機関を通じた安全保障を主張し、軍国主義化する日本を批判。戦後、冷戦が激化すると、国際機関による安全保障への期待を薄めて日米安保体制に主張の力点を移した。結果、左右両陣営から論難された。
本書は、現実を見つめ、戦争の違法化と国際紛争の司法・平和的解決を一貫して追究する横田の姿を浮き彫りにする。
理念なき現実主義は、場当たり的になりがちだ。「横田は、その場しのぎではない。空々しい平和論でもない」と強調する。「今の日本のように、理念不在のまま、自国だけのメンツに執着する考えが広がる中で、例えば、憲法改正のような、国の根本問題に白黒をつけるのは危険。理念を見据えた横田の考え方は、現代日本にも示唆を与えるはずです」
片桐さんは群馬県高崎市に生まれた。政治思想、歴史にひかれ、慶応大学で外交史・国際関係学を専攻。「世の中を良くしたい。今何が問題か。背景には必ず歴史がある。問題を解くカギを歴史に求める姿勢です」
慶大大学院博士課程の時、外務省外交史料館が取り組んだ『日本外交史辞典』編纂(へんさん)チームの一員に。そこで「太平洋問題調査会」の史料を見つけた。同会は第1次大戦後の1925年、国際社会の中心がアジア・太平洋地域になるとの見込みから、ハワイの有識者や財界人らによって立ち上げられた。実業家・渋沢栄一の「国民外交」の理想も反映するものだった。
90年から約20年間、「渋沢研究会」代表を務め、2013年には渋沢関連の本も出版したが、史料で頻繁に名を見たのが横田だった。「人物にひかれた。執筆には情熱がこもった」
96~14年の間、群馬県立女子大学教授を続けてきた。家から車で約15分と近く、何より研究時間を重視したためだ。大学時代からたしなむ裏千家の茶道のひとときもほしかった。
「歴史を所与条件と思わないことが大事です。そして、膨大な史料に埋もれ、それをていねいに読んでいく。すると、オリジナルの見方がわいてくるんです。史料は語るのです」(文・写真 米原範彦)=朝日新聞2018年10月20日掲載
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