>長谷川さんが翻訳を手がけた韓国絵本「あめだま」のペク・ヒナさんインタビュー記事はこちら
>長谷川さんと室井滋さんの共作絵本「すきま地蔵」のインタビュー記事はこちら
「きたはほっかいろ みなみはチャーシューおっきいわまで」。全都道府県をだじゃれでくまなく巡る絵本『だじゃれ日本一周』は、2009年の刊行から約10年で30万部に届くベストセラーになっています。47のだじゃれに花を添えるのは、各地の名所旧跡やユニークなキャラクターたち。くだらなくて、笑えて、ためになる。そんな遊び心あふれる絵本は、いかにして生まれたのでしょうか。作者の長谷川義史さんに聞きました。
編集者から言葉遊びで1冊作りませんかって言われまして。その場で都道府県のだじゃれを何個か発表したんです。「きょういちにちひまねけん(島根県)」って言ったら、「こんな地味な県もだじゃれになるんですね」言うて編集者が乗って来たんですよ。その編集者は島根県出身やってん。そんなら都道府県をだじゃれで全部網羅しましょうかって。
――石川県が父カバ県(「とうさんかばです ちちかばけん」)……。だじゃれに独特のセンスを感じます。
単発のだじゃれはしょうもないだじゃれなんですよ。口動かして言葉発して、ポンポンポンとリズムで決める。例えば「きょういちにちひまねけん(島根県)」。暇やなー、お金もないし、すっからかんやなー。で、「すっからかんのがまぐちけん(山口県)」。「なんでこんなんにするんですか、お金がいっぱいがまぐち県でいいじゃないですか」って山口県の人に言われたこともあるんやけど、それじゃあおもしろくないしなーって。自由気ままに、あまりいろんな県に気を使わんとやってます。
――47都道府県のだじゃれを見開きで2つの県ずつ並べて、だじゃれでストーリーになっているんですよね。
だじゃれの羅列だけでは絵本としておもしろくない。それでばらばらに考えた47都道府県のだじゃれをカップリングしていったんですよ。「おかずはなんどすきょうとうふ(京都府)」。京都ですから湯豆腐をしているけど、湯気がほわーんと出るからメガネがくもる。「めがねがくもってよくみえけん(三重県)」。そういうふうに絵と文章を頭の中で浮かべて作ったんです。つなげることでおもしろさが倍増するっていうのがあって、2つの県をカップルにしたのはこの絵本の中で一番よかったアイデアだと思ってるんです。
悪ふざけのような絵本が子どもの学びにつながった
――単独のだじゃれを組み合わせたのに、全部きちんとつながっていますよね。
そう見えるでしょ。でも最初はばらばらなんです。言葉と言葉だけやったらあまりつながらないんですけど、絵本っていう強みがあって、絵があるからだじゃれ同士のつながりが分かる。それでも最後のほうはカップルにならない県がいくつも出てきて、入れ替え入れ替えして、カップルにならない県はまた一からだじゃれを考え直して、最終的にとてもうまいこといったと思ってるんですよね。
――情報量がものすごく多くて、読むたびに新たな発見があります。
そうそう。カップリングのアイデアができて、言葉のイメージで絵もだいたい掴んでいるんですけど、名所・旧跡・おいしい食べ物とか、各県を代表するものをそのページに散りばめていかないといけないんで。これがまた大変なことで、でもそれがよかったらしくて。
小学生が県名を覚える時に、まずだじゃれで都道府県に興味を持ってくれて、絵を見てこんな県なんやって楽しんでくれて、「見返し」の地図でここにあるんやなっていうのを遊びながら覚えてくれるっていうのを、いろんな小学校で聞いたんです。最初から強制的に「覚えなさいよ」ではなんか嫌じゃん。そんなことは狙わんと、ただ悪ふざけのように作ったからよかったと思うんです。
――いろんな楽しみ方ができそうですよね。
ケアハウスとかで読み聞かせする人が言うには、お年寄りがものすごく喜んでくれていると。人生重ねていくと、生まれた県があって、引っ越しもあったりするやろうし、子供が生まれて成長したら違う県に嫁いでいったり、いくつも馴染みの県ができると思うんです。そういうのもお年寄りが喜んでくれる理由じゃないかなあと。
――長谷川さんはずっと大阪ですよね。大阪で創作活動をすることに何かこだわりがあるんですか。
僕はぼーっとしてる人間やから。若いときはみんな東京行くし、イラストやるにしても絵本やるにしても出版社は全部東京っていってもいいくらい東京じゃないですか。僕も行きたいなーと思ったんですけど。基本的にぼーっとして、行ったほうがええんかなーとか思っているうちに、どんどん時間が過ぎていって。気が付いたら今になってました。
――ずいぶん長いですね(笑)。
でも今となったら、どこも行かんとずっと大阪でやってたことが、良かったって思ってて。大阪は、「どうだ!」「ははーっ」ていう武士の街とちゃうんですよ。商人の街やから、あなたより私のほうがアホですねん、っていうほうが相手が気持ちよくなって商売ごとがうまくいく。「どうだ」すると、反対に恥ずかしいって思われる街やんか大阪は。
だじゃれの話をすると、「えーあかんやろ、こいつアホちゃうか」って思われるだじゃれのほうが結局おもしろい。そのほうが、読み手が優位なほうに立つやん。カッコいいもんじゃなくて、ユーモアとかおもしろさとか、ちょっとがくっとなるような。まさしくだじゃれの “駄”ですよね。それが笑えんねん。人はしょうもないことで笑うねん。
メッセージは読み手が感じとってくれる
――作風がエネルギッシュで、とにかく楽しんでもらいたいって思いを感じます。
いっつもそうなんです。僕はメッセージとかないんです。でもやっぱり人間が作るもんですから、できあがったものにはその人の考えとか表現が出るみたいで。僕は大阪の街中でも自然豊かなところでもない中途半端なところに生まれたんで、絵もやっぱりおっちゃんおばちゃんが出てきて、ごちゃーっとしたような絵が得意なんです。そんなことはなんも考えんと出しても、人はここからテーマなり感じるものを読み取ってくれるんですよね。
ほんで、いつも子供たちにサービスで入れるんですけど、必ず各ページのどこかに、「どんぐりぼうや」(絵本の「扉」でほっかいろとチャーシューを持っている長谷川さんのオリジナルキャラクター)がいるねん。
――言われないと分からない。
言われないと分からへんけど、おまけ的なものを入れとかんと。自分の絵本の中ではよくやってますねん。愛媛県は絵本作家の長野ヒデ子さんの出身なんで、「せとうちたいこさん」っていう絵本のキャラクターを登場させたり。群馬県には草津温泉があるからプロレス好きなお父さんがひょっとしたら気づいてぷっと笑ってくれるかなって「グレートくさつ」って書いたんです。『だじゃれ日本一周』には、他の絵本作家のキャラクターも芸能人も歴史上の人物もいっぱい出てきてます。そのほうがおもしろいしね。
――昔からそうやって人を喜ばせるのが好きだったのですか。
好きやねん。子供のときから絵を描く人になりたかったんです。ノートでパラパラ漫画を作ったり、友達の似顔絵描いてみたりして、それを見せてぷっと笑ってもらえたときが快感やってん。今もあの頃とまったく変わっていないんです。元気になってもらえる絵を描きたい。ずっとそうやねん、おもしろがってほしいんです。