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自意識過剰な若者、俳句に出合う 本田「ほしとんで」

 突然ですが問題です。「しんしんと桜が湧きぬ○○○○○」の○○に好きな言葉を入れて俳句を完成させなさい。
 これに「クレーター」と答えたのが本作の主人公・尾崎流星だ。ある大学の芸術学部文芸学科に入学し、小説志望なのになぜか俳句ゼミに入ることになった。その2回目の授業の課題が右の句を含む3句の「穴埋め俳句」である。
 流星はじめゼミのメンバーは皆まったくの初心者。ゆえに、先生の講義は読者にもわかりやすい。とはいえ単なる俳句の学習マンガとは違う。赤子連れ、饒舌(じょうぜつ)オタク、マツコ・デラックス似のハーフ、ネガティブコミュ障と、濃いキャラぞろいのゼミ生たちの会話はコント級。言葉選びのセンスが秀逸で、セリフだけで誰の発言かわかるのはキャラが立ってる証拠である。
 一方で、自意識過剰な若者たちの青春群像劇としても期待大。数文字の穴埋めに〈自分の言葉を人に見られる覚悟ができていない〉と動揺し、小説投稿サイトの感想に過敏反応し〈自分の一喜一憂力でそのうち死ぬ気しかしない〉と自虐する。そんな彼らが俳句ゼミから何を学び、どう成長していくのか。表現に向き合う姿勢、他者との距離感など、見るべき点は多い。=朝日新聞2018年11月10日掲載