膨大なデータや資料をもとにして、日本の現状を提示している。水道民営化の問題点などは、たいへんよく調査分析されている。ただ、若干過剰とも思える表現が散見されるのが気になった。
たとえば衰退する日本漁業では大規模化や株式会社化などが「官」の側から提案されているが、著者は「企業が守るのは、海でも地元でもなく、『株主』」「企業が自己都合で撤退し地方経済が崩れても、誰も責任を取ってなどくれない」と書く。労働基準監督署の業務を社会保険労務士(社労士)に民間委託する政府方針には「普段企業を守る立場の社労士が労働者の相談にのって、どれほど親身になれるだろう?」。
本書に通底しているのは、金もうけ的なものへの反発である。規制改革推進会議や国家戦略特区など、政府が推し進める規制緩和政策への嫌悪も感じ取れる。それはそれで理解できるのだが、現在の日本は内外環境の変化にどう対応するかということが、あらゆる分野で求められている。
たとえば介護保険については、団塊の世代の高齢化で介護費はふくれ上がることが予想され、一方で収入が低く激務の介護職の成り手が少ないという厄介な状況にある。介護職を賃上げしつつ、介護費全体を下げるという難しい舵(かじ)取りが求められており、政府・経済界だけでなく衆知を集める必要がある。
本書で提示されているさまざまな問題はどれもいまの日本にとっては避けてはならない重要課題ばかりであり、これらがひとつの視点から俯瞰(ふかん)できるということには価値がある。これらの課題はマスコミに看過されがちなものも多く、「いまこのような問題があるのだ」と改めて提示されたことで、多くの読者に気づきを与えている点は評価すべきだ。
誰かを攻撃するための材料にするのではなく、日本の未来についての議論の起点として、この本を捉えたい。
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幻冬舎新書・929円=8刷13万5千部、10月刊行。担当編集者によると、周りに薦めたいと何冊も購入する人がいるという。=朝日新聞2018年12月1日掲載
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