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MIYAVI初の著書はサクセスストーリーじゃなく、努力してる男の現在進行形の言葉

文:宮崎敬太、写真:時津剛

大事なのは持って生まれたスペックではない

ーーすごいタイトルの本ですね。

 言いたいことを削ぎ落としていったら、このタイトルになりました。最初のインタヴューの時、「MIYAVIさんは何か特別な才能を持って生まれた人ですよね?」みたいな話になったんですけど、「いやいやいや、全然違いますよ」と。僕も何者でもなくて、ただ何かを成し遂げるためにガムシャラに本気でやってきただけ。大事なのは持って生まれたスペックではない。それを伝えたくて、このタイトルにしました。

ーー本書が初めての著書になりますが、執筆で難しいことはありましたか?

 僕は歌詞も書くし、たまにスピーチもするから特別に難しいことはなかったですね。でも、最初は自分が本を出すこと自体、時期尚早じゃないかとは思いました。サクセスストーリーをあれこれ話すようなガラでもないし、実際、自分自身、まだ夢を追っている途中だし。でもその最中だからこそ言える、現在進行形の言葉があるとも感じて。それで、今回思い切ってチャレンジしてみることにしました。

 僕は今、家族とロサンゼルスに住んでいて、娘たちとの日常会話は基本的に英語なので、日本語でこんなに自分のことを話すのは本当に久しぶりでした(笑)。制作当初、僕はロンドンで映画の撮影をしていて、最初は帰りの飛行機で全部のチェックと執筆は終わるだろうと思ってたんですけど、やりだすとものすごく時間がかかってしまった。編集の人とも何度も細かくやり取りして。そこはこだわりましたね。

ーー「自分の好きなことを、他人に誇れるかで判断してないか?」みたいなパンチライン満載で読んでいて楽しかったです。

 たぶん、この本はその気になれば1時間くらいで読めちゃう。すごくシンプルな内容だと思います。タイトルもそうなんですが、言いたいことだけにフォーカスしていったら、どんどんストレートになりました。だから、ディティールなど情報量としては少ないのかもしれないですが、要点は詰まっていると思います。僕は小さい頃からそういう性格。普段スタッフと話していても、言い終わる前に「で、何が言いたいねん」となってしまう(笑)。でも絶対に伝わる内容にしたかったので、自分の体験談含め、自分の思想というか人生に対しての考え方もたくさん書かせてもらいました。

人生を自分の望む方向に変えていくためには?

ーー「いつか自分が叫ぶ番が回ってきたときのために今できる最善を尽くす」「人は自分のキャパシティを超えた物量を処理しないといけないときに、テンパり、(中略)焦りから感情的になってしまう」「劣等感を持ったところでいいことは何もない」などなど、この本を読んで努力と向き合う考え方が変わりました。

 努力とは目的達成のためのプロセスだと思います。目的に向かっている時はプロセスが長く、大変だと感じるけど、その瞬間だけを切り取ってみれば、そのプロセスをどう楽しめるかが大事だったりもする。例えば、登山をしている状況で、五合目にいたとする。それは頂上を目指すという目的があるから五合目にいることに意味があるし、辛くとも、もっと登ろうと思うし、ここまで来られたと感じられる。ただ、変わらず五合目にい続ける状況だったら、じゃあどう環境を整えるか、居心地をよくできるのか、変わってきますよね。これは最近読んでいる『ホモ・デウス : テクノロジーとサピエンスの未来』にも書かれていますが、目標とプロセスに対する観点は非常に興味深いです。

 僕もまだ道の途中、努力してて、それは苦しくもあるけど、楽しくもある。基本、プロセスを楽しむ状況に甘んじていたくない。あくまでも目的を達成するために、歩き続ける。もしかしたら、誰かの目には僕はもう頂上に到達しているように見えるかもしれないけど、僕には、まだ登りたいと思う山が見えている。

ーーMIYAVIさんは好きなことを仕事にしていますよね? でも世の中にはそれができずに悩んでいる人もたくさんいると思います。自分の仕事にやりがいを感じられなかったり。

 好きなことを仕事にできることは幸運なことだと思います。けど、半分無理矢理そうしてきた部分もあります。仮に好きなことが仕事になってない人がいて、その人が現状に満足できてないのなら、その状況を変えるためにできることをロジカルに現実的に考えて、実行するしかない。

 僕だって悩みやジレンマはあります。例えば、今の時代、ギタリストよりDJのほうが機材が少なくてツアーが楽。USBディスク一本で世界中回れちゃう。演技という面では、そもそも英語が話せなかったし、小さい頃にそういう教養を得たこともなかった。言い出すと切りがない。みんなとは状況も環境も違うけど、根本的な部分で理想と現実のバランスは同じなんですよね。じゃあどうするかと言えば、目の前にあることを120パーセントやるだけ。自分の人生を自分の望む方向に変えていくためには、それ以外ない。

自分はなんのために行動しているのか考えることが大事

ーー理屈としては共感できるんですが、それを自分が実行できるか考えると、途方もなくてスマホゲームに現実逃避してしまいそうです……。

 あはははは(笑)。でも、全然難しく考える必要はなくて。例えば、スマホゲームだってなんのためにやるかをはっきりさせればいいんだと思います。

 例えば、本当にただの現実逃避なのか、息抜きなのか、もしくは、誰かと共通の話題を作るためのコミュニケーションツールだとか。実際、僕も娘たちとゲームはよくやるし。仕事で家にいられないことが多いから、海外のホテルから自宅にいる子供たちと一緒にオンラインゲームで遊んだりします。

 僕も結構ゲームにのめり込んでしまうタイプで、下手したら子供より熱中しちゃうので、1人ではゲームをしません。なぜなら特にツアー中は、セットのことを考えたり、ステージでのパフォーマンスに備えてストレッチ、リラックスすることに努めたり、読書をしたり、映画を見たり、別のことをするようにしているからです。それはゲームで得られる達成感を費用対効果で考えると、別のことをしたほうがいいと判断するからで、別にゲームがダメってことじゃなくて、「自分はなんのためにゲームをやっているのか」ということを考えると自然と淘汰されてくるのかなと思います。

ーーMIYAVIさんの思考はロジカルすぎますね(笑)。

 そこは笑い事じゃなくて。俯瞰してみて、自分がなんのためにそれをやっているのか考えることはすごく重要なことなんですよ。日本の教育はそういった人生においての意味や思考を促す教育がすごく欠けていると思う。結局、人は他人の時間に干渉できないから、個人の考えが重要になってくる。その上で、どう協調していくか、がすごく大事だと思います。

ーーなるほど。世界の紛争地域の現状を目の当たりにしたMIYAVIさんは、現在の日本をどのように見ているんですか?

 本当にすごく良い国だと思う。でも、それも俯瞰で見た時、正解かどうかはわからない。安全で治安も良くて、トイレなんて自動でお尻を洗ってくれる。そんな国、他にないですよ。本でも書いたけど、南米ではバンドメンバーが現地の水道水で作った氷に当たってオムツをはいてライヴしたこともあるから(笑)。今の日本で当たり前のことは世界では当たり前じゃない、ということを認識する必要があるし、同時にそういう南米みたいなところや難民キャンプみたいな場所でどういうことが起きていて、どういう人たちが何をしているのか、ということを知った上で、自分たちの国の豊かさやどれだけ恵まれているかを知る必要はあると思います。

ーーMIYAVIさんがレバノンで子供たちに順番でギターを弾かせてあげようとしたら、横入りした子供と並んでた子供同士が殴り合いを始めて、血まみれになっていたというエピソードはかなり衝撃的でした。

 そうなんですよね。でも、それが彼らにとっての日常であったりもする。僕はそういう事実を見た上で、感じたこと、伝えたいことを自分の言葉や音楽で伝えていきたい。そのためにギタリストと並行してUNHCRの親善大使をやってるんです。異なる価値観の隔たりを自分という存在で埋めたい。

 これは本に書いたカリフォルニアロールの話にも近いんですけど、生魚を臭いという先入観を持った人に、いきなり寿司を薦めても絶対に成立しない。寿司は素晴らしいし、美味しい。だからこそ生魚の臭みを通り越して、そこにたどり着くためのブリッジが必要。そこで生魚の代替になるもの、つまりカルフォルニアロールにおけるアボカドが今の僕の音楽に必要なもので、そのブリッジとなるものを音楽で作ることが僕の使命だと思っています。

ーーUNHCRの親善大使として難民キャンプに行く活動は、すべて自費だということにもかなり驚きました。

 世界中の親善大使もみんな、そうしています。いろんな仕事のスケジュールを調整して、そのための予算を自分で確保する。みなさん、本を買って僕を支援してください(笑)。というのは冗談だけど、それぞれができることをやっていけばいいと思っています。

科学的に分析すれば、ロックスターの僕と、あなたの悩みや葛藤は大差ない

ーーMIYAVIさんはさまざまな活動を同時進行させていますが、頭の中がごちゃごちゃになってしまうことはないんですか?

 さすがに頭の中だけでは整理しきれないので、いろんなことの要点だけをスマホとかにメモして、すぐにアウトプットするようにしてます。頭の中はいつもできるだけフラットな状態にしておきたいので。でもメモする間もなく、いろんなことが起きる場面もある。特にライヴ中とか。あと海外のテレビ番組やレッドカーペットで英語でインタヴューされたりする時とか、うまくいかないことも当然あるから、そういう時はちゃんと失敗と向き合って、復習するようにしています。ミステイクこそ、最大の学びになりますから。

ーーなるほど。そう考えると「自分でもやれることはあるのかな」と思えてきました。

 僕もまだ本当に、毎日葛藤してる。ロックスター的には、こんな本を書いても何の得もない。でも「実は、俺も同じだよ」って言うことで、届けるべき人たちに届けられるかなって。もちろん立ってる場所も職種も違うけど、根本はみんな一緒だと思うんですよ。これも『ホモ・デウス』の受け売りですけど、人間が生物として感じられる幸せや悩みは科学的には大差はないそうなんです。つまりワールドカップの決勝でゴールを決めた人の感動と、ずっと通い詰めたキャバ嬢と初めてご飯に行けた時の感動は、そう大きな違いではない(笑)。とすれば、ロックスターの僕が感じている悩みや葛藤も、立場や状況は違うかもしれないけど、根本的にはみんなと同じなんです。だから、お互いそこに向き合っていくしかないし、僕は僕、あなたはあなたの物語を本気で紡いで行けばいい、そう思うんです。

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