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祖母の死の割り切れなさ「小説がしっくり」 古市憲寿さん「平成くん、さようなら」

古市憲寿さん

 「いろんな人がむかついていると思う」。芥川賞の候補になった感想を朝の情報番組でこう話した。その毒舌から炎上コメンテーターとも呼ばれる社会学者・古市憲寿さんが、受賞は逃したものの、今回の芥川賞で大きな注目を集めた。

 「平成くん、さようなら」の舞台は安楽死が認められた社会。「違う社会のあり方を提示するのが社会学。もう一つの解釈を示すという意味では、これまで書いてきたことと今回の小説は、僕の中で隔たりはない」

 登場人物のひとり、平成(ひとなり)くんは「自分の最期は自分で決めたい」と言う若者だ。「僕自身、死のタイミングは自分で決められた方がいい」。小説に向かったきっかけは祖母の死。元気だった祖母が入院で歩行も食事もできなくなった。見舞うたびに、死にたいと言う。「本人が死にたい、苦しいと言うとき、生きることを至上にしなくてもいいのかなと思いました」。一昨年の秋に89歳で祖母は亡くなり、割り切れなさが残った。それを表現するには論文でもエッセーでもなく、「小説という形がしっくりきた」という。

 大学院進学も著書の刊行も、最近引っ張りだこのテレビ出演も「ひとに勧められるままに生きてきた」。いまだに働いている意識はないそうだ。「自分自身はものすごい楽観的。ほとんどのことがどうでもいいと思っていて」。希望と絶望が表裏一体。「日本がどんな状態になっても、僕はそこそこ楽しめると思っている」

 選考委員の奥泉光さんは「歩道橋の上で高架線に触れる場面など印象的なシーンがいくつかあり、平成くんの描き方にも細部に魅力はある」と評価する点を挙げたが、選考会では「安楽死法が実現した架空の日本を描いているが、我々が生きる今の時代に対する批評性がないのではないか」という意見が多かったという。(中村真理子)=朝日新聞2019年1月23日掲載