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「復興と尊厳 震災後を生きる南三陸町の軌跡」書評 「おすそわけ」できる人間関係

評者: 寺尾紗穂 / 朝⽇新聞掲載:2019年02月09日
復興と尊厳 震災後を生きる南三陸町の軌跡 著者:内尾 太一 出版社:東京大学出版会 ジャンル:地域社会・地域開発

ISBN: 9784130561174
発売⽇: 2018/11/27
サイズ: 20cm/272,22p

復興と尊厳 震災後を生きる南三陸町の軌跡 [著]内尾太一

 「与えられたものを食べて、与えられたものを着て生きていくだけなら私らは家畜と変わらない」。震災から2年半後、被災した南三陸町の住民が支援物資について感謝しつつも口にした言葉は強烈なインパクトを持っている。本書は著者がNPO運営者の一員として、3・11後の支援活動に関わった体験をもとに書かれた。2016年まで5年に及ぶ子どもの学習支援などの活動は、現地の人びととの関係のあり方を変えながらも続き、そこから得られたエピソードや考察は重要な視点を含んでいる。
 著者が属したNPOは「人間の安全保障」を掲げていた。国家の安全保障の枠組みでは解決されない、個々の人間の生活を守るという概念だ。その中でも著者はとりわけ「尊厳」の問題を重視する。支援者が残り続けることで、被災者を「被災者」にし続けてしまう、と著者らが煩悶する中で、被災者たちが「おすそわけ」と余った支援物資をくれるようになったという変化は興味深い。与えられるだけでなく、自らも与えることが可能な人間関係の健全さが、人が生きる上で尊厳につながる重みを持つことに気づかされる。
 防潮堤建設を巡る問題も、地域の景観として誇ってきた三陸の地域がある一方で、住民の主体性が強まっていた南三陸においては、国家の権力に従う形と受け止められた。しかし、津波を生き抜いた椿の生命力をシンボルに、椿の避難路を作り上げた住民たちの取り組みには、防災が国家に主導される中、それを「地域に根付く解釈で上書きし」尊厳を維持する力があると著者は指摘する。
 「失ったものも多かったけど、得られたものも多かった。もしかしたら、そっちのほうが多かったかもしれないな」。震災から5年後、控えめに語られ記録された被災者の言葉は、国土交通省が発信し、広告上にあふれた「がんばろう!東北」という言葉の対極において、静かな輝きを秘めている。
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 うちお・たいち 1984年生まれ。麗沢大助教(文化人類学)。2011年の東日本大震災の発生直後から被災地に入った。