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「障害者の傷、介助者の痛み」「病者障害者の戦後」 なぜ「隔離」 闇を切り開く言葉 朝日新聞読書面書評から

評者: 椹木野衣 / 朝⽇新聞掲載:2019年02月23日
障害者の傷、介助者の痛み 著者:渡邉琢 出版社:青土社 ジャンル:福祉・介護

ISBN: 9784791771226
発売⽇: 2018/12/11
サイズ: 19cm/392p

病者障害者の戦後 生政治史点描 著者:立岩真也 出版社:青土社 ジャンル:社会学

ISBN: 9784791771202
発売⽇: 2018/12/13
サイズ: 19cm/476,43p

障害者の傷、介助者の痛み [著]渡邉琢、病者障害者の戦後 生政治史点描 [著]立岩真也

 東京オリンピック・パラリンピックを控え、これまでになく障害者にスポットが当てられている。それは私が専門とする美術でも同様だ。障害者が描いた絵は、従来の美術の枠では捉え切れない魅力的なものが多く、国内外で注目が集まっている。だが、障害者の持つ可能性が開かれる反面、その影で見えにくくなっていくものもある。はなやかな障害者の姿に魅かれるだけで、なにかがわかった気になってはならない。
 ほぼ同時期に出たこの二冊は、一方は現場に立つ介助者の視点から、他方は過去の言説を検証する立場から、障害者をめぐる状況を描き、合わせて読むことで、その「現在」が立体的に浮き彫りになるように思われる。
 渡邉の著作では、書名にある通り、障害者をめぐる現状だけでなく、そのことと介助者の置かれた困難とが同格で扱われる。障害者は「傷」を負った者だ。それは確かだ。だが、それを介助する者も無傷というわけにはいかない。介助者は障害者の「傷」をともにすることで、心に「痛み」が生じる。しかも、この傷と痛みは「生存と労働をめぐる対立」のように、権利をめぐってしばしば相反する。
 そのことに無頓着では、傷は深まり、痛みは増す一方だ。なぜ「介護」でなく「介助」なのか。「ヘルパー」と「支援者」はなにが違うのか。「ケア」とは? ほかにも障害者が高齢となり介護保険を受ける立場となった際、障害者福祉との関係はどうなるのか(「介護保険優先原則」)。私たちはまだ知らないことばかりだ。
 本書が第Ⅰ部に「相模原障害者殺傷事件をめぐって」を置いているように、基調にあるのは、障害者はなぜ、地域から施設へと隔離されなければならなかったかということだ。立岩の著作は、そうした「隔離」をめぐる歴史的、というにはあまりにも近い過去の経緯や、それをめぐって発せられた言葉が検証されることもなく、ただ忘れられていく現状に対し、国立療養所に身を置いた者たち(当事者)、身を預かる者たち(医療従事者)、そして預けた者たち(家族たち)の行動や態度の変遷を「点描」というかたちで掘り起こしていく。
 論考でも、研究でも、調査でもないのは、それらが「隔離」する側の口実だったからだろう。立岩は「言葉を、例えば本を、字を書かない人で生きているなら声を、集めることをしている」。それなら点描にならざるをえない。というよりも、点描でしか確かめられない事実が、この領域では多すぎる。
 二冊に通じるのは、みずからが使う言葉への細心の注意と配慮だろう。その文体は驚くほど新鮮で、長く閉ざされた闇を切り開くようだ。
   ◇
 わたなべ・たく 75年生まれ。日本自立生活センター事務局員。著書に『介助者たちは、どう生きていくのか』▽たていわ・しんや 60年生まれ。立命館大教授(社会学)。著書に『不如意の身体』など。