小説から詩歌、評論まで6部門を顕彰する第70回読売文学賞の贈賞式が20日、東京都内で開かれた。
移動に伴う文学考察 随筆・紀行賞の西成彦さん
「随筆・紀行賞」は比較文学者、西成彦さんの『外地巡礼 「越境的」日本語文学論』。東アジアから北海道、沖縄、北米南米までを視野にいれて日本語文学を追った。西さんは「関西に育ち、17歳で初めて上京した。それから東京に着いた回数は200を超えるだろう」と始め、「初めてのときのもやもや感、2度目から懐かしさが重なる。帰属していないところに降り立つ感覚が、自分の研究を支えてきた。移動に伴う文学を世界規模で考える。これからもこの道を進んでゆく」と結んだ。
7年かけた鶴屋南北 研究・翻訳賞の古井戸秀夫さん
「研究・翻訳賞」は歌舞伎研究者、古井戸秀夫さんの『評伝 鶴屋南北』。執筆に7年、出版まで3年。全2巻、2段組みで1600ページの大著。「買うに高価、読むに大変」という渡辺保さんの選評に、古井戸さんは「その通りです。読者におわび申し上げたい。選考委員が正月返上で読んだと聞いて、本当に申し訳ない」と異例のスピーチに会場はわいた。「どの章から読んでもらってもいい。どの節でも。といっても600枚ぐらいありますが。滝沢馬琴は『百年以後の知音を俟(ま)つ』と言ったが、今回はものを書いていて本当に良かった」と話した。
このほか、「小説賞」平野啓一郎さん『ある男』、「戯曲・シナリオ賞」桑原裕子さん「荒れ野」、「評論・伝記賞」渡辺京二さん『バテレンの世紀』、「詩歌俳句賞」時里二郎さん『名井島』が受賞した。(中村真理子)=朝日新聞2019年2月27日掲載