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名前からして謎めく雑誌「八画文化会館」 B級スポットを深く熱く紹介 

 タイトルからして謎である。
「八画文化会館」?
 いったい何の雑誌なのか。文化会館というぐらいだから、地方の行政施設の広報誌? と思ったら表紙の肩のところに小さな文字で「いけないことに憧れて。」と書かれてある。いけないこと? なんか怪しい。
 では、八画とは何のことか? ググってみると画数の説明の次に「八画文化会館」が出てきた。だからその八画が知りたいの! 堂々巡りだよ。単に縁起のいい数字とか、そういう話?
 結局タイトルの意味は不明だが、実はこれ、全国の廃虚やB級スポットを紹介する不定期刊の雑誌である。
 最新号は「パチンコホール」の特集。紙面にはパチンコホールの廃虚の写真と、電飾看板の写真がこれでもかと並ぶ。読んでいくと、最後の最後まで寂れたパチンコホールの話だった。
 ニ、ニッチすぎる……。
 バックナンバーを調べてみると、前号は「レトロトピア岐阜」特集(レトロトピアはレトロとユートピアをかけた造語)、その前は「駅前文化遺産」、その前は「日本のワンダーランド伊豆」とかなりマニアック。岐阜は昭和時代の古い建物がいろいろ残っているとか、伊豆には奇妙な博物館がたくさんあるとか、知る人ぞ知るけど知らない人は全然知らない独自の情報網で日本を斬っていく。
 B級スポットを扱う雑誌は他にもあるが、取り扱うテーマの偏りっぷりと、一冊まるごと使って掘り下げていく密度の濃さは、かなり異常。売れないだろうなあと心配になるものの、売り上げよりも、B級スポット界のなかでも末端に位置する事象に光を当てたい、という気概がびしびし伝わってくる。「こういうのも面白いよね」なんてレベルの記事じゃないのだ。
 最新号では、パチンコ看板の文字の考察から、ホール内のディテール図鑑、美しい盤面コレクション、ホールのマッチラベルコレクション、別の施設に転用されたホールの一覧、パチンコ台コレクターや女性店主へのインタビューなどに混じって、本特集を監修したパチンコホール愛一筋のマニア、栄華(えいか)さんの話が熱い。なんでも廃虚や路上観察趣味界隈(かいわい)ではパチンコホールは下に見られているとかで、その地位向上に執心されているそう。なんだ、その上下関係。
 本誌が不定期刊行の理由がよくわかった。これだけのテーマを見つけ、それを深掘りできるまで出せないのだ。次は2020年に商店街特集号を出せればいいな、と編集後記に書いてあるが、出せるとは限らないのだった。
     ◇
 2011年創刊。発行部数は3千部。廃虚や珍スポットなど、絶滅寸前だが生々しい「終末物件」を案内してきた。編集部は「新しい旅の目的地をつくるのが役目」。八画出版部、最新の第7号は1944円。不定期刊行。一部書店のほか、通販サイト「八画文化会館」から購入できる。=朝日新聞2019年5月1日掲載