歌壇最高峰の賞と言われる第53回迢空(ちょうくう)賞(角川文化振興財団主催)に決まった歌人で早稲田大教授の内藤明さん(64)に話を聞いた。受賞作『薄明(はくめい)の窓』(砂子屋書房)は、父母・師をいたむ挽歌(ばんか)や東日本大震災を詠んだ歌などを編年で構成した6冊目の歌集だ。
20歳ごろ、誘われて短歌の結社へ。古典文学に興味を持ち始めたのも同時期だ。いま大学では古代から現代まで日本文化論を教える。
突つ立ちて葦(あし)吹く風を見てゐたり流され来たる朝のごとくに
受賞発表会見の選評で選考委員を代表し佐佐木幸綱さんは、がんばっている自分を表に出さない「脱力」の魅力を強調した。
もしやわれ躁(そう)にてあらむか次々と安請け合ひを重ねきたりぬ
痛む歯を道連れにして帰りゆく満月の夜 自転車を漕(こ)ぐ
情けない自分を複眼的に詠む。「若い人のフィクショナルな歌に魅力を感じるが、自分も歌で私小説を構築している」という。時代に対する抵抗感は声高ではなく、ユーモアににじませる。
一人(いちにん)が喋(しゃべ)り二人がうなづきて空気が変はる寝ては居られぬ
2012年から「歌会始の儀」選者。万葉集に関する著作もあり、「1人あげるなら大伴家持。古代性を持ちながらメランコリック。揺れ動く繊細な詩魂を感じる」が、「あまり日本日本と言わず、東アジアのなかで互いの詩などについて考えていきたい」。(岡恵里)=朝日新聞2019年5月8日掲載