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「奴隷労働」「ふたつの日本」書評 利害と差別が絡むこの国の現状

評者: 本田由紀 / 朝⽇新聞掲載:2019年05月18日
奴隷労働 ベトナム人技能実習生の実態 著者:巣内 尚子 出版社:花伝社 ジャンル:社会・時事

ISBN: 9784763408808
発売⽇: 2019/03/20
サイズ: 21cm/271p

ふたつの日本 「移民国家」の建前と現実 (講談社現代新書) 著者:望月 優大 出版社:講談社 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784065151105
発売⽇: 2019/03/13
サイズ: 18cm/222p

奴隷労働 ベトナム人技能実習生の実態 [著]巣内尚子/ふたつの日本 「移民国家」の建前と現実 [著]望月優大

 「おまえに技術を教えても、3年間の実習が終わったら国に帰る。おまえに教えても、うちの会社のためにはならない」。ベトナムから技能実習生として日本に来たクイーさんは、日本人社員の言葉に絶望する。
 低賃金の単純労働に延々と従事させられるだけで、技能を実習できない技能実習生。その制度名称そのものに、欺瞞と矛盾が凝縮されている。借金してベトナムの仲介会社に高額の費用を払い、ブラック研修とも言うべき「躾(しつけ)」を受けた上で日本に送り込まれ、長時間労働を続けても劣悪な住居の家賃等が引かれて手元に残る賃金は乏しく、暴力やハラスメントも常習化している。親切な日本人経営者がいないわけではないが、それは運任せ。酷い実習先企業をたまらず逃げ出した先にあるのは、在留資格外の仕事を紹介するブローカーと入管の摘発だ。ベトナムに戻って送り出し側に転じる場合もある。
 利害と差別が複雑に絡み合う蟻地獄のような技能実習制度の実像を、巣内尚子はベトナム・日本双方の綿密な取材に基づき詳細に描き出している。
 ただし、日本にいる外国人はむろん技能実習生に限られない。日本語学校などで学びながらアルバイトに従事する人たち、専門的・技術的分野の在留資格、「永住者」とその配偶者、「定住者」、そして在留資格を失った滞在者など、多岐にわたる位置づけの外国人がすでに日本国内で生きており、新たに「特定技能」も加わる。
 その数は約400万人にも及ぶ。その中には、劣悪な処遇で何年も閉じ込められている入管施設収容者を極として、人権保障や生活支援が欠落し存在すら無視されている人々が大量に含まれる。
 彼らを生み出しているのは「私たち」だ、と望月優大は断じる。いつまでこの醜い欺瞞を続けるのか、誰かを踏みにじって平気な国であり続けるのか。その岐路は目の前にある。
    ◇
 すない・なおこ 1981年生まれ。フリージャーナリスト▽もちづき・ひろき 1985年生まれ。ウェブマガジン編集長。