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「外国人労働者・移民・難民ってだれのこと?」書評 欧州も悩んでいる共生へのヒント

評者: 呉座勇一 / 朝⽇新聞掲載:2019年05月25日
外国人労働者・移民・難民ってだれのこと? 著者:内藤正典 出版社:集英社 ジャンル:社会・時事

ISBN: 9784087816723
発売⽇: 2019/03/26
サイズ: 19cm/253p

外国人労働者・移民・難民ってだれのこと? [著]内藤正典

 外国人労働者問題ほど、自分の立場を決めるのが難しい社会問題は他にないだろう。排外主義には与したくないが、文化的・宗教的摩擦が心配だ。治安も悪くなるのではないか。いやいやそれこそ偏見だ。とはいえ安倍政権の入管法(出入国管理及び難民認定法)改正は拙速で、産業界に迎合している気がする。だが少子高齢化で労働力人口が減少している以上、外国人労働者を受け入れるしかない……このように思考が堂々巡りしてしまいがちだ。
 日本政府は単純労働に従事する外国人労働者を受け入れないと言い続けてきたが、それはタテマエにすぎず、既に日本には146万人もの外国人労働者が存在する。さらに入管法改正によって、数年で数十万人の外国人労働者の来日が見込まれている。「特定技能2号」の在留資格を得た外国人労働者に対しては家族の帯同も認めるから、事実上の移民受け入れだ。政策転換がない限り、私たちは彼らと共生する必要がある。
 本書はそのための入門書として最適だ。移民・難民の定義から始まり、ここ30年の日本の外国人労働者受け入れ政策の問題点を基礎の基礎から解説する。白眉は、イスラム系移民を受け入れたヨーロッパの状況リポートで、具体的なエピソードが満載だ。トルコ人はきれい好きで、夫婦共働きだと日曜日に洗濯をするが、日曜はキリスト教の安息日なので、ドイツでやると警察に通報されてしまうという。水泳の授業が男女一緒であることにもイスラム教徒は反発している。
 日本では専ら同化主義が批判されるが、多文化主義の英米などにも問題があると著者は指摘する。移民街が形成され、外の社会との接点を失うことが多いという。移民受け入れの先輩である欧米も悩んでいる難問に対する答えはすぐには出ないだろうが、巻末の「外国人と仲良くするための10のヒント」は覚えておきたい。第5条は血液型性格診断の話題をしない、である。
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ないとう・まさのり 1956年生まれ。同志社大教授(多文化共生論、現代イスラーム地域研究)。『となりのイスラム』。