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宮西真冬さんの群像小説「友達未遂」 少女4人の呪縛と解放

『友達未遂』(講談社)

 舞台は創立130年の歴史がある全寮制の女子高。規律に厳しいことで有名なお嬢様学校には、3年生と1年生が1人ずつペアになり、お互いをマザー、チャイルドと呼ぶ制度があった。恵まれない家庭に育った新入生の一之瀬茜(いちのせあかね)は、そこで誰にも言えない事情を抱えた少女たちと出会う。

 「母と娘の話を書きたいと思っていました」と宮西さん。「自分も母から言われたことに縛られているなと思う部分はあって、それが支えにも生きづらさにもなる。父と息子ならまた違うのに、娘が母を乗り越える、捨てるというと『冷たい娘』と思われがち。なんでだろうなと」。作中のマザー/チャイルド制度は、母娘との二重写しだ。

 本作はメフィスト賞への初投稿作だった。受賞は逃したが、編集者の勧めで改稿を重ねていたという。

 小説を書き始めたのは大学を卒業してから。大学では映画サークルでシナリオを書いていたが、「せりふとト書きだけで心理描写ができないから、登場人物の気持ちの動かし方がわからなかった」。小説では人物の心理に寄り添い、「こう言われたらこの子はこう動くだろう、というのを繰り返して、多視点で組み上げていきました」と話す。

 それが、単純なカテゴリーにはまらない展開につながった。一見イヤミスのように幕を開けるが、ラストは爽やかな余韻を残す。根底にあるのは、「すべてがうまくいくわけじゃないけど、何か光があるような話にしたい」という思いだ。

 「自分が弱い人間なので、弱くても幸せになれるよって思いたい。こうあってほしいなという思いが強いのかな」。だが、地に足のついた結末にたどり着くのは容易ではなかった。「ネガティブだから、しんどいラストはいくらでも思いつける。でも、そうじゃないだろう、何かあるはずだって思いたいんです」

多様性増すメフィスト賞

 ミステリー作家の登竜門だったメフィスト賞の受賞作が多様性を増している。京極夏彦さんが編集部への持ち込みでデビューしたことをきっかけに、新人発掘を狙って1996年に開始。だから作家ではなく編集者が選び、賞金もない。

 初期には「講談社ノベルス原稿募集」の冠があり、先行作にならった前衛ミステリーの受賞が目立った。森博嗣(ひろし)さんを皮切りに舞城(まいじょう)王太郎さん、西尾維新さんらが輩出。だが、2004年の辻村深月(みづき)さんを一つの契機として、人間ドラマを描く作品が増えていく。

 近年は宮西さんのほか、巨大な虫の姿になったひきこもりの息子と母親を描く黒澤いづみさんの『人間に向いてない』、水墨画を題材にした砥上裕將(とがみひろまさ)さんの青春小説『線は、僕を描く』(6月下旬刊行予定)などが、その流れにある。

 こうした傾向について、編集部は「誘導しようとしているわけではなく、投稿作の増加とともに多様性が増してきた」と説明。ジャンルにこだわらず、「とにかく目から鱗(うろこ)なもの、ゼロからイチに動かす原動力があるものを読みたい」と期待している。(山崎聡)=朝日新聞2019年6月15日掲載