暑い時に怖い話をきくと、血管が収縮して涼しくなったように感じる。だからこそ夏は妖怪や幽霊の季節と言われるのだが、私たち人間と怪異の関わりを考える展覧会やイベントが各地で開かれている。
規模が大きく総合的なのが、国立歴史民俗博物館(千葉県)の特集展示「もののけの夏―江戸文化の中の幽霊・妖怪―」(9月8日まで)だ。現代の妖怪ブームの先駆けとされる百鬼夜行図の流行から始まり、それらが芝居などの娯楽や、江戸時代の人々の暮らしにどう受け入れられていったのかを、絵巻や浮世絵、妖物双六(すごろく)など約100点から考える。
そんな怪異を描く名手と言われたのが幕末~明治に活躍した浮世絵師・月岡芳年(1839~92)。群馬県立歴史博物館ではその妖怪画の集大成と言われる連作「新形三十六怪撰(かいせん)」を一挙公開(9月1日まで)。
展覧会ではないが、東京・池袋のサンシャインシティ文化会館の体感イベント「ゲゲゲの妖怪100物語」(8月26日まで)を見ると、時代によって怪異の表現方法は違っても、根底にはいずれも未知への恐怖があることがわかる。
こうした怪異は日本だけのものではない。国立民族学博物館(大阪府)の特別展「驚異と怪異―想像界の生きものたち」(8月29日~11月26日)は世界各地の幻獣や霊獣、怪獣などを紹介する。
これらに対して、迷信を打破するといった立場から、怪異を研究したのが仏教哲学者の井上円了(1858~1919)だった。山崎記念中野区立歴史民俗資料館(東京都)の企画展「井上円了没後100年展~円了の妖怪学~」(8月31日まで)は、科学研究にもつながる彼の妖怪学をひもといている。(編集委員・宮代栄一)=朝日新聞2019年8月21日掲載