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『「宿命」を生きる若者たち』書評 生活満足度が上昇しているのはなぜか

評者: 本田由紀 / 朝⽇新聞掲載:2019年08月24日
「宿命」を生きる若者たち 格差と幸福をつなぐもの (岩波ブックレット) 著者:土井隆義 出版社:岩波書店 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784002710013
発売⽇: 2019/06/06
サイズ: 21cm/132p

「宿命」を生きる若者たち 格差と幸福をつなぐもの [著]土井隆義

 現在の若者層では、貧困率は上昇し、「努力しても報われない」という意識は高まり、「生きていれば良いことがあると思う」という意識は低下している。しかし同時に、特に若者の幸福感や生活満足度は上昇している。これはなぜか?
 これまでも社会学者が注目してきたこの謎に、著者は改めて取り組む。多数のデータを組み合わせて導き出した答えは、成長・発展が停滞した「高原期」の日本では、「よりよい未来」の替わりに、過去すなわち伝統、民族、生得的属性などに若者が拠り所を見出しているということである。
 こうした自らの「宿命」を受け入れて生きる若者は、貧しさや不遇な状況に追い込まれても、自己責任主義や努力主義の規範をも内面化しているため、人生への期待値そのものを下げてしまい強い反発を抱きにくい、と著者は述べる。
 異論もあるかもしれない。だが異論を鍛えるためにも、この分厚いブックレットは役立つことだろう。