――妊活や不妊治療について、男性の実体験を書いた作品は珍しいかと思いますが、原作を読んだ感想を教えてください。
私の周りにも不妊治療を受けている人は何人かいて、本作のように、女性の体に問題がなくても、検査や治療を受ける妻側に負担がかかることは何となく知っていました。でも、不妊治療を受けるにはどれくらいの期間が必要なのか、いつ次のステップに進んで、治療には何十万というお金が必要で……といった細かいことを知っていくうちに、改めて「こんなに大変だったんだ」と思いました。不妊治療には辛いこともたくさんあるけれど、全体的にヒキタさんがご自身の実体験をコミカルに書いていらっしゃったので、時々笑いながら読むことができました。
――原作は夫側の視点で書かれていましたが、映画では妻・サチさんの心境も丁寧に描かれていました。不妊治療を受ける妻役を演じられて、いかがでしたか?
サチは自分の辛さや大変さをあまり人に見せない、内に秘めた強さを持っている人だと思いました。不妊治療って、男性と女性、どちらに原因があろうが夫婦2人でやっていく問題だと思うんですよね。本作では、夫であるヒキタさんに不妊の原因があるけど、ヒキタさんを責めたりせず、自分に原因があることを後ろめたく思わせないよう、普通に振る舞ってあげることが、サチの優しさなんだと思いました。その強さや優しさをずっと大切に演じました。
――作中で「ヒキタさんの子供に会いたい」と言うサチのセリフがありますが、この一言を夫に直接言うことって勇気がいるし、とても大切なことだと感じました。
「もしかしたら、相手は子供を欲しがっていないのかも」と悩む女性もいると思いますし、共働きであればなおさら、子供について話し合う時間がないと思います。でも、妊活はお互いが協力しなければいけないことだから「あなたの子供が欲しいんです」とちゃんと相手に伝えることって大事ですよね。それに、サチはそれを言ったからって、ヒキタさんが引くとか断るとかではなく、自分の言うことをきちんと受け止めてくれる夫だと信じているから言える言葉だったと思うので、そういう夫婦の関係性ってすごく素敵だなと思います。
――その他に、北川さんが心に残ってるセリフやシーンはありますか?
不妊治療を受けることを、サチが両親に話すシーンですね。サチにとっては、自分の体に問題がないので、もしかしたら相手が違えばすんなり妊娠できたかもしれないけど「私はこの夫の子供が欲しいんだ」ってあんなに堂々と言えることってすごく素敵なことだし、渾身の一言だったんだろうなと思いました。
きっとサチは幼いころから優等生で、親の言うことをきちんと聞いて大切に育てられた娘さんだと思うんですが、このシーンで、初めてサチが父親に対して自分の気持ちを言ったんじゃないかなと思うんです。「ヒキタさんの子供だから」「ヒキタさんとだから不妊治療も頑張ることができる」ってはっきりと、特に男親に伝えるのは相当勇気がないと言えないと思います。台本を読んだ時は「難しいシーンになるのかな」と思っていたのですが、父親役を演じた伊東(四朗)さんは、厳しい中にも愛を持って見守ってくれているお父さんでいてくださったので、初めてサチがその父に反抗するという感じで勢いに任せました。
――本作を通じて、夫婦や家族について改めて考えられたことはありますか?
夫婦や家族って「一蓮托生」であるということを、今回の作品を通して思いました。家族がいて、支え合える人がいるという事を普段はつい忘れてしまいがちですが、誰かが転んだり立ち止まったりしたら、他の誰かがその手をつないで、もう1度みんなで前に進んでいかなくてはいけない存在が家族だと思うんです。ただの血の繋がりや婚姻関係というわけではなく、良いことも悪いことも一緒に共有して生きていくのが家族なんだということをすごく感じた作品ですし、サチという役に出会わなければ、家族についてそんなに真剣に考えなかったかもしれないです。
――北川さんは本好きなご両親の影響で、幼いころから読書習慣が身についていたそうですね。
家にはたくさん本があって、子供の頃はその中から手あたり次第読んでいました。キリスト教系の学校に通っていた影響で、三浦綾子さんの本を読むようになったのですが『塩狩峠』は、初めて読んだ重厚な小説です。それから、山崎豊子さんの『二つの祖国』は「自分は今後どんな大人になっていけばいいのかな」ということをすごく考えさせられた作品ですね。この2冊を読んだのは中学1年生の時だったと思います。私は中学受験をして、そのままエスカレーター式に高校から大学まである学校に入ったので、中学3年間はあまり勉強にも追われなかったんです。その時が、一番本を読んでいたかもしれません。
最近は仕事と切り離して本を読むことが多いですね。今は寝る前に「今日は何ページまで」と決めて読むことが多いです。最近は『リラとわたし ナポリの物語』というシリーズの翻訳版を買って、3巻まで読みました。表紙のかわいさに惹かれて思わず手に取りましたが、物語の舞台であるイタリアは一番好きな国ですし、内容もすごく面白かったです。普段とは全然違う世界に冒険できるのが読書の醍醐味だと思うので、いい気分転換になっています。