長い絵が蛇腹折りにされ、本の形を取っている。ページを開くたび高度が上がり、地上から成層圏、宇宙ステーション、太陽と、見上げていくように「空」が一体何なのかを紹介している。開くほどにページは伸びて、最後には空の全貌(ぜんぼう)がどんと残っているような。
でも、普通の本だって実はそうなのだと思う。ページをめくってもそれまでに読んできた箇所が消えることはなく、頭の中で長い長い絵を作り続けている。この本は蛇腹折りになった絵を広げながら読むこともできるけれど、折ったまま、普通の本のように高度ごとにじっくり読むこともできる。最後にページを広げて、読んできた空の広さを実感するのもまた楽しく、それは本の厚みをすっかり忘れて、読み終えてからその分厚さにぎょっとするような読書の時間によく似ている。
世界を知り尽くすことはできないし、でも世界に知る価値があるのだということを広さや分厚さは実感させる。人間の好奇心がどこから来るのかって、きっと、途方もない世界を、小さな体で生きているからだろう。=朝日新聞2019年10月5日掲載
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