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ダブル今村対談がまさかの実現! 歴史作家・今村翔吾さん×ミステリー作家・今村昌弘さん(前編)

今村昌弘さん(左)と今村翔吾さん 構成:山崎聡 写真:滝沢美穂子

ダブル今村、初対面

今村昌弘 お互いに「今村さん」では、らちが明かないですね(笑)。元々ツイッター上では翔吾さんの作品は僕のタイムラインにも上がってましたし、お名前も存じ上げていました。同じ名前のかたが、すごくハイペースで本を出してらして。しかも「時代もの」のなかで、いますごく来てるかたなんだなと。いまプライベートでも木下昌輝さん(歴史作家)とかと、ちょくちょく遊んでまして、時代ものに少し興味が出てきたところだったので。

今村翔吾 僕も元々(昌弘さんのことは)存じ上げてたし、よく軽口みたいな感じで、「なんで俺のデビューした年に、あんなに売れる『今村』が出てくんねや」みたいなことも言うてて(笑)。編集さんとの話のなかで、こっちがどんだけヒットを重ねてホームに帰ってきても、向こうは一発で満塁ホームラン打っていくから、と。こっちはとりあえず、つなぐ野球をしようと(笑)。だってさあ、めっちゃホームランやん。デビュー作から昨今珍しいぐらいの売れ行きやったじゃないですか。いやが応でも見るし、僕読んだし、サイン本持ってるし。

昌弘 ほんとですか!

翔吾 両方とも(『屍人荘の殺人』と『魔眼の匣の殺人』)。

昌弘 いやぁ、ありがとうございます。でもたぶん、編集の方からしてみたら「もっと翔吾さんぐらい書いてくれよ」と思ってるんでしょうけれど(笑)。やっぱり1冊目が話題になったので、書きにくいというか、出しにくくなったところはあって。だいぶ慎重に書いてるところはあるので。でも、知り合いの作家さんとかはもちろん、もうちょっとハイペースで出されてるので、僕は、ご存じかどうか、「バキ」(板垣恵介の漫画『グラップラー刃牙』)に出てくる花山薫方式で。

翔吾 ためて一発(笑)

昌弘 ためてためて、ぶん殴るみたいな(笑)

翔吾 たぶん、一発目でボーンといった人なりの苦労みたいなのはあるやろなとは思ってたし。僕は結構、出すタイミングとか考えまくる人なんで、たぶん2冊目は映画化に合わせてとか、出版社はそういう売り方していきたいやろなと。というか、書くの大変やと思う、これ。僕、ごめんやけどミステリーはほとんど読んだことがなくて、最近になって江戸川乱歩を読み出したぐらい。毛嫌いしてたわけじゃないんですけど。ほんまに1、2冊目ぐらいに『屍人荘の殺人』を読んだんですよ。だから、言うたら結構、変わったタイプの作品やってんけど、僕にとったらこれがスタンダードになってて(笑)

昌弘 ありがとうございます(笑)。それで、前々からそういう感じで、面白いかたがおられるなとは思ってたんです。そしたら、今村夏子さんが芥川賞をお取りになって。これはちょっとスルーするのもなんかもったいない気がして、一言載せとこうと思って。「最近の今村さんはみんなすごいな」って感じでツイートしたら、翔吾さんの方からリプライを下さいまして。ノリのいい書店員さんはそれを見てすぐに「今村棚」を作って下さったり。こちらとしても面白いんですよね。同じ今村という名前で、全員が違うジャンルを書いてるというのは。

翔吾 よく編集さんにも言われますけど、長い文壇の歴史のなかで、こんだけ短い期間に同じ名字の、しかも山本とか佐藤とかやったらまだしも。たぶん、文壇の歴史を大正ぐらいまで遡っても、ないんですよ、同じ名字の人が3人というのは。もちろん夏子さんが先行してましたが、僕らは1歳違いで、僕が2017年の3月デビューで、昌弘さんが10月ですよね。同年なんですよ。そういうのも含めて。

昌弘 翔吾さんも完全に本名で?

翔吾 僕、本名なんですよ。

昌弘 僕も。

翔吾 関西ですよね?

昌弘 そうです、育ちはほぼ関西で。両親は長崎なんですよ、どっちも。

翔吾 九州に多いもんね、今村。熊本に多いんよね。

昌弘 そうなんですか。

翔吾 相良氏っていう大名家の流れが今村。

昌弘 へえ!さすがやっぱり(笑)

翔吾 そこは僕が知ってた方がいいですよね(笑)。それか、京都で代官をやってた今村か、北条家の今村かの、武士ならだいたいこの三つちゃうかなっていう感じです。

昌弘 なるほど(笑)。こっちの出版社でも、話のネタとして、いつか対談できたら面白いですね、みたいなことは、ちょこちょこ言ってたんですよ。

翔吾 僕も言ってた。

昌弘 ツイッターでつぶやいたら、本当になるんだ(笑)

翔吾 いまの時代らしい感じですよね。昔の先生方やったら文通から始めなあかんところ、時間がぎゅっと短縮されて(笑)。やっぱりジャンルがちゃうかったらほとんど会わないし。僕もたまにミステリーじゃないけどトリックとか考えるけど、昔の時代のトリックって、指紋採られへんから、やりたい放題なんですよね(笑)

昌弘 血が誰のもんだとか調べられないし(笑)

翔吾 なんでもありですよ。とりあえず辻斬りしときゃええんかなって(笑)。やけど、そういう意味でいうと、科学が進歩すればするほど大変やろなって、現代でそれをやるのは。(『屍人荘の殺人』は)そこであえて非現実的というか、もっと先に進んだ……現代小説っていうより未来の話なんかなとも思うし。そこは過去からやってる僕からしたら、面白い。

昌弘 逆に僕からすれば、歴史的な出来事は確定してて、特に歴史は栄枯盛衰なので、最後はもの悲しかったりするじゃないですか。ファンタジーみたいに「めでたし、めでたし」でなかなか終われないんじゃないか。それでもやっぱり、読んでる方は楽しい気持ちで終わりたいっていうのが強いじゃないですか。だから、そこら辺の話のまとめかたがたぶん、こちらよりも制限されているし、難しいんじゃないかなという気がします。

翔吾 そうやね。たとえば、池波正太郎先生がおっしゃってるけど、人間って千差万別やけど、生まれて死ぬことだけはわかってる。どんな人間でも、年を重ねれば重ねるほど死を意識して、みんな想像を一度はしたことあるようなテーマだと思ってて。死ぬ、滅びるというのは、人間がいちばん人間らしくなる、一生の主題みたいなものが際立つ瞬間でもあると思うので、むしろそういうときの、色んなものがそぎ落とされた一点を描くことができるから、その点は逆にいいのかなと。むしろ、死んでいくキャラクターとか、作らなあかんわけでしょう?ミステリーを進めるために。それって大変かなって。僕のほうは、死ぬときは勝手に死ぬというか、史実で決まってるから死なさなあかん、というのはあるけど、自分で死っていうもんを描いていかなあかんから、それは負担かなって思いますね。

昌弘 そうですね。ミステリーって本当に色々あるんですけど、いわゆる犯人をみつけるみたいなのは「本格ミステリー」とこっちの界隈では言われてるんですよね。元々は僕もミステリーをあんまり読んでなかったんですよ。それこそ、本気で書こうと思ってからミステリーを読んで、勉強して、分析して、身につけたんですけど。そのなかで、なんでこういう「探偵もの」という、狭いところに来たかっていうと、いまミステリーを募集している新人賞ってものすごく多いんですけど、募集の内容が「広義のミステリー、あるいはエンターテインメント」って言われてるから。やっぱりそれぞれの好みって千差万別で、何を求められてるかってわかんないじゃないですか。色んな好みがあるから色んなことできるけど、その結果、求められてることがわかんない、というところがあって。何でもできるけど逆に苦しい。逆に本格ミステリーっていう、要するに探偵がいて犯人がいて、何件か殺人が起きて、手がかりがあって、それを見つけるっていう、一種のストーリーが決まっているという息苦しさ、やりにくさはあるんですけど、そのなかでうまいことやれば評価される。狭いからこそ、どこをうまくやってるのか、どこが珍しいのかがわかるっていうところが、僕にとっては逆にやりやすかったんですよ。物事が決まってる箱のなかでやりなさいって言われてるから、評価軸がこっちにもはっきりとわかる。どこがいいと言われて、どこがだめと言われてるのかがわかるから、むしろ楽というか、やりやすいなと思って、このジャンルにしたんです。

翔吾 僕が新人賞に投稿してたときにうらやましいと思ったんは、ミステリーって専用の賞が用意されてるけど、時代小説専用ってどんどん減っていってて。若干デビューした人が多い、それこそ角川春樹小説賞とかはあるんですけど、やっぱり小説すばる新人賞とかに挑むと大変で。まわりをハイ・ファンタジーに囲まれるみたいな。そのなかで無差別でたたかっていくのは結構大変やった。だから僕自身はどっか、いままでにないものを常に意識しながら、目新しいもの目新しいもの、とは思ってたかな。デビューするまでは。

30歳になってからでも夢はかなう

昌弘 ちょっと話が戻るんですけど、翔吾さんのプロフィールだとか、過去のインタビューの内容を拝見したときに、これは感覚的に近い人だろうなって思ったんです。昔から歴史がお好きとかいうところはちょっと違うんですけれども、(作家になるための)挑戦のタイミングとか、そのときの心境とか物の考え方が、すごく似てるなと。

翔吾 そうやね。僕もインタビュー読ましてもらったけど、どっかのタイミングで(作家になろうと)思ったんですよね。僕もそう思いました。僕は30歳になった瞬間に。定年の延長が取り沙汰されてるけど、やっぱり60歳って僕からしたら、一つの区切りなんですよ。その半分来たか、と思ったときに、いつまでも「いつか」と言ってたら一生かかるな、と。

昌弘 そうですね。一生かかるなと思いました。

翔吾 だからたぶん、そう思うときが勝負するときなのかなって思うし。やっぱりそうですか。

昌弘 そうです。僕は昔から運動をよくやってまして、中学から大学までバレーボールをやってたんですけど、スポーツの考え方って、そのときどれだけ一生懸命やっても勝者はほんの一握りだし、その人たちって生活をつぶして練習とかして、それで結果を残してる。小説でそういう結果を残したいと思ってんのに、のらりくらり過ごしてて、なるわけがねえよな、と思って。どっかでやっぱり本気になんないと絶対にだめだし、やっぱり30歳っていう年齢は僕も意識して、29歳で仕事をやめて応募生活に入ったんです。そのときの僕ですら、10代の自分とは色々考えられる可能性とかが狭まってきてるんだろうなと。このまま50、60になったときの自分は、29の自分よりもっと狭い可能性しか考えられなくなってるんだから、いま挑戦しとかなきゃだめだと思って。じゃあもう賭けよう、ということで。

翔吾 僕もほんとによく似た感じかな。僕は(講師だったダンススクールの)子どもたちに「夢を持て」って言いながら、自分自身が高校の卒業文集にも「小説家になりたい」って書いてんのに、一切書いてこんかって。時代小説は40、50になって、滋味にあふれてから書くもんや、みたいなんを信じ込んで、それを言い訳にしてやってこんかったけど、俺は何もやってないなって思った。生徒に言われたんよ。「翔吾くんも夢あきらめてる癖に」って。すごい家出してる子がいて。「夢とか持てよ」みたいなこと言うたら、それを言われたときに、まあ、自分のなかであまりに衝撃的やって。その一週間後に「辞める」って言いにいきましたね。そっからはずっと必死で。30になってからでも夢がかなうってことを証明したいなって、子どもたちに。と思ってずっと走ってきたって感じかな。

贅沢のとらえ方が「同じや!」

昌弘 作家としてやっていくっていうことがどういうことか、何を成功と捉えるのかっていうこともインタビューでおっしゃってたんですけど、生活できればいいのかっていうと、そうでもなくて。やっぱり書きつづけたいとか、そういう気持ちの方が強い。たとえばお仕事を辞めて書いてらしたときも、生活としてはすごく節約されてただろうし、ずっと書きつづけて認められないみたいなことも多かったと思うんですけど、でも、僕もそうだったんですけど、別につらくはなかったですよね。

翔吾 うん。(作家デビュー後に始めた)仕事を辞めたときも、「まだ辞めないでください」とか編集者さんは言うんです、「ちゃんとした生活を」って。でも、よくよく聞いたら、編集者さんの言う「ちゃんとした生活」って、僕より5ランクぐらい水準が高かった(笑)

昌弘 そうですよね(笑)

翔吾 僕は別に、ふりかけとご飯でいけるけど、って思ってたから(笑)。極端な話ね。スーパーの半額のコロッケとご飯があったら、ソースかけてそれだけで御馳走やねんけどなって思っててん。

昌弘 もう、ほぼ同じことしてますよ(笑)

翔吾 向こうが言ってんのって、ローン組めてとか……。

昌弘 僕もたまご買ってきて、たまごかけご飯一食だけでやりくりするとか、そういう生活を無職のあいだはしてて。でも、もっといいもの食べたいとかじゃなかったので。だからいまも、お金はあのときと比べてありますけど、あんまり、その……。

翔吾 それ、むっちゃわかるわ……。俺もケンタッキーのセットに、もう一個つけたら贅沢やと思ってるもん(笑)

昌弘 そう、迷わず好きな総菜を買って帰れるっていう。

翔吾 そうそうそうそう、めっちゃ思う。

昌弘 それが贅沢なんですよね。

翔吾 そう、半額ありゃ半額を選ぶけど、「まいっか、きょうぐらい揚げ出し豆腐、半額ちゃうけど」みたいな(笑)。それぐらいで、十分いけたり。

昌弘 いける、いけるんすよ。

翔吾 たしかに編集者さんとかにおいしいものとか連れてってもろて、おいしいなって思うんですけど、僕は遠慮してしまうから、ちょっともうお腹いっぱいって噓ついて、ホテル帰って「なか卯」食ってますもん。

昌弘 (笑)。東京のお仕事で書店まわりとかが終わった後、ご飯連れてってくれるときもあるんですけど、仕事が残ってるときは別れるときもあるじゃないですか。その後、僕がどこかに食べに行ったと思って、次の日「どこに食べに行きました?」みたいなことを聞かれたときに、ホテルで「UFO」作って食ってたって(笑)。そしたら、すごい怒られて。

翔吾 最近、「野菜食べろ」ってめっちゃ言われるなあ。オカンかって思うけど(笑)

昌弘 だから、生活に対するこだわりとかじゃなくて、やりたいことをやってるっていう満足が第一に立つので。

翔吾 むしろ、書くようになって外界と遮断されるから、感覚は昔のまま保たれるっていうか。もちろん食べていかなあかんから、お金は必要なんやけど……。何が楽しいやろ。何が楽しいですか?

昌弘 なんなんすかねえ。まあでも、エアコンとかを、気兼ねなく使える……。

翔吾 めっちゃ同じ。まったく同じこと言うてる!エアコンずっとつけれる幸せ。

昌弘 それが幸せです。

翔吾 これマジで俺も思う。びっくりした。似てるわあ、マジで。

昌弘 それが贅沢なんですよね。何か新しいものを欲しい、じゃなくて、いままで我慢してたもんを気兼ねなくできるってことが最高の贅沢みたいなところはあるので。外食するときも早く出してくれるところがいいので。

翔吾 僕もあんまりご飯は……。いま家にいたらお腹減らへんから、1日1食ですけど、夜。

昌弘 ああ、同じ……同じですね。

翔吾 お腹減らんよね。よく、頭使ったらお腹減るでしょ、みたいなこと言うけど。

昌弘 減らないです。何かつまみながら書こうと思って、買ってきて、つまんだら、全然進まないんですよ(笑)

翔吾 僕もあんまり集中せんくなっちゃうから、食べへんかなあ。1日どんな感じの生活リズムでやってはります?

昌弘 起きる時間は遅くなって、朝10時とかに起きて。僕は考える時間がはるかに多いんですよ、書く時間より。プロットを練る時間がめちゃくちゃ長い。

翔吾 たしかにミステリーってそんなイメージある。

昌弘 1年のほとんどを考える時間と、ゲラを直す時間に費やしてて。実際に書いてる時間は2~3カ月だけなんですよ。なので、カフェを転々としたり、あとは本を読んだり。

翔吾 時代小説、特に文庫書き下ろしは、F1みたいな速度の勝負で。だから、僕は書きながら、どうにかなるかな、と思って書いてるかな。書きだしたときには、どうなんねやろって思ってる。僕、プロット立てんのがむちゃくちゃ下手で、新潮社の編集者さんに『八本目の槍』のプロットを書いたら、「一晩徹夜で考えましたけど、まったく意味がわかりませんでした」って言われた(笑)。ほんとに下手らしくて、プロットが。で、内容をしゃべったら、「なんでそれを書かないんですか」って。それやったら、とっとと原稿書かしてくれって。俺の頭のなかではイメージができてんねんけど、それをプロットにする作業が一作書くような労力になってまうから、もう書かして、みたいになっちゃった。説明しても「うまいこと絡み合うんよ」みたいな。あと、他の作品のことを言うねん。「ここは衝撃的な、『進撃の巨人』で巨人が出てきたときの感じ」とかって、いろんなマンガとか小説とかを振り分けちゃうから、わからへんて言われる(笑)。僕はずっと、午前中と午後と夜と、違う作品を書いてたんですよ。A、B、Cと。飽き性なんで。でも最近ね、ちょっと、ほんとにやばくなってきて、原稿が。だから「2日間で1日」と思うことにして。42時間働いて、6時間寝るっていうのを、1カ月に3、4回はするかな……。

昌弘 すごいな……。

翔吾 1日に2回、太陽は昇って沈むもんやと思いこむ。意外と慣れるんよ(笑)。締め切り前とかはそんな感じかな。

(構成:山崎聡・朝日新聞生活文化部記者)

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