500年ほど前に朝鮮半島から渡ってきて、戦国武将らを魅了した井戸茶碗(ちゃわん)とはいかなるものか。『井戸茶碗の真実 いま明かされる日韓陶芸史最大のミステリー』(趙誠主〈チョソンジュ〉著、多胡吉郎訳)は、1944年生まれの韓国人陶芸家がその起源や用途をめぐる長年の研究をまとめた一冊である。
日本で国宝にまでなっている井戸茶碗については、その来歴に韓国でも諸説あり、例えば日本に渡る前から特別な名器とされていたという主張があるという。著者は「排斥的で国粋主義的な思考」と退けて自説を展開、「もとは朝鮮の器であったが、日本の茶道文化の産物でもあると理解するのが、穏当であろうか」と書いている。
訳者による長いエピローグが理解を助ける。NHKディレクター時代に知り合って以来、著者とは長年の交流があり、韓国では井戸茶碗の故郷と目される地を共に訪ねた。かつての陶工たちの姿に思いをはせ、井戸茶碗とは「両国の文化文明の出会いと交流の産物」なのだと訳者は書く。本書は2人の共著の趣がある。(福田宏樹)=朝日新聞2019年10月19日掲載
編集部一押し!
- インタビュー 「尾上右近 華麗なる花道」インタビュー カレーと歌舞伎、懐が深いところが似ている 中村さやか
-
- 中江有里の「開け!本の扉。ときどき野球も」 生きるために、変化を恐れない。迷いが消えた福岡伸一「生物と無生物のあいだ」 中江有里の「開け!野球の扉」 #13 中江有里
-
- コラム 三浦しをんさんエッセー集「しんがりで寝ています」 可笑しくも愛しい「日常」伝える 好書好日編集部
- 大好きだった 「七帝柔道記Ⅱ」の執筆で増田俊也さんが助けられた「タッチ」と「SLAM DUNK」 増田俊也
- 小説家になりたい人が、なった人に聞いてみた。 【特別版】芥川賞・九段理江さん「芥川賞を獲るコツ、わかりました」 小説家になりたい人が、芥川賞作家になった人に聞いてみた。 清繭子
- インタビュー 鈴木純さんの写真絵本「シロツメクサはともだち」 あなたにはどう見える?身近な植物、五感を使って目を向けてみて 加治佐志津
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(後編) 辞書は民主主義のよりどころ PR by 三省堂
- インタビュー 新井紀子さん×山本康一さん対談(前編) 「AI時代」の辞書の役割とは PR by 三省堂
- インタビュー 村山由佳さん「二人キリ」インタビュー 性愛の極北に至ったはみ出し者の純粋さに向き合う PR by 集英社
- 朝日ブックアカデミー 専門外の本を読もう 鈴木哲也・京大学術出版会編集長が語る「学術書の読み方」 PR by 京都大学学術出版会
- 朝日ブックアカデミー 獣医師の仕事に胸が熱く 藤岡陽子さんが語る執筆の舞台裏 「リラの花咲くけものみち」刊行記念トークイベント PR by 光文社
- 朝日ブックアカデミー 内なる読者を大切に 月村了衛さんが語る「作家とはなにか」 「半暮刻」刊行記念トークイベント PR by 双葉社