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大宅賞&新潮ドキュメント賞「選べなかった命」河合香織さんインタビュー 出生前診断、賛否でなく様々に

河合香織さん

 序章のタイトルは「誰を殺すべきか?」。そんな重い問いを投げかけた作品が今年の大宅壮一ノンフィクション賞と新潮ドキュメント賞に選ばれた。河合香織さんの『選べなかった命 出生前診断の誤診で生まれた子』(文芸春秋)だ。

 2013年、ある夫婦が産婦人科医を相手に裁判を起こした。出生前診断で「異常なし」と告げられていた男児がダウン症で生まれ、その合併症のため約3カ月で死亡。「妊娠を継続するか中絶するかの判断の機会を奪われた」と損害賠償を求め、苦しんだ男児への慰謝料も請求した。

 注目されたのは、障害があって生きることと、中絶によって生まれなかったことを比較し、前者が損害にあたると主張したことだった。ネット上などでは「身勝手な親だ」と批判された。河合さんも当初、戸惑ったという。ただ、自身も第1子を妊娠中、妊婦健診で障害がある可能性を指摘され、気持ちが揺れた。その経験から「当事者の立場にならないと分からない」と取材を始めた。

 裁判で医師側は「母体保護法により中絶は生命倫理に反する」と、中絶の選択権が侵害されたという訴えを問題視する主張をした。現行法では、中絶は経済的・身体的理由などに限られ、優生学的な思想への反発から、胎児の異常を理由とした中絶は認められていない。ところが、現実には、診断で陽性だった8割近くが中絶を選んだデータがある。

 河合さんは、批判を恐れて議論がタブー視されてきたことが問題だったという。「法律と現実が乖離(かいり)しすぎていて、裁判になった時にはざまに落ちてしまった。社会の問題としてタブーの先を考えることが必要だと思います」と話す。

 出生前診断に「賛成か、反対か」と単純化せず、様々な立場の人を通して「命の選択」を重層的に考えていく。ダウン症の子とともに生きる家族、旧優生保護法下で強制不妊手術を受けた女性、家族にゆだねられた選択に苦しむ助産師……。「命への様々な向き合い方を知ることが大切です」

 04年に障害者とその性の介助をする人に迫った『セックスボランティア』でデビューした。現在は東京大学大学院で生命倫理を学ぶ。

 ノンフィクションの魅力とは何か。「平易に要約した記事が増えているが、ひとの思いや社会で起きていることは、一言で言い表せない。その複雑さを描いていきたい」(宮田裕介)=朝日新聞2019年11月27日掲載