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びっくり古文書伝奇 高田大介『まほり』など、アンソロジスト・東雅夫さんオススメの3冊

  • 高田大介『まほり』(KADOKAWA)
  • 加門七海『着物憑き』(集英社)
  • 泉鏡花/澁澤龍彦編『龍蜂集』(国書刊行会)

 異世界ファンタジー〈図書館の魔女〉連作で一躍名を馳(は)せた高田大介の新作長篇(ちょうへん)『まほり』は、前作とはガラリ趣(おもむ)きを一変、上州(群馬県)の山里を舞台とする、伝奇色濃厚なひと夏の奇譚(きたん)である。

 とはいえ、その展開は、かつて書かれたいかなる伝奇小説とも異質で、清新な驚きに満ちている。

 田舎町の随処(ずいしょ)に人知れず貼られた二重丸(蛇の目紋)のお札。その跡をたどってゆくと、思わぬ場所へ導かれて……という都市伝説めく実見談に関心を抱いた主人公は、寺社縁起などの郷土資料を手がかりに謎の解明を進めてゆく。

 つまり本書は書斎派もしくは図書館派とでもいうべき、前代未聞の古文書伝奇小説なのだ。次々に引用される古文献の行間から、民衆史の闇がじわじわと顕在化する迫力は圧巻の一語。しかもその慄然(りつぜん)たる禁忌が、現代まで脈々と息づいている次第が明かされる、物語後半のアウトドアでスリリングな展開との対比も実に鮮やかだ。

 『まほり』の冒頭には、鮮紅色の着物をまとい、蛇の目紋が描かれた下駄(げた)を履いた少女が、深山の水辺に独りたたずむという妖美な描写が登場するのだが、着物や帯やその文様に秘められた呪術めく奥義の数々に、エッセーの形で肉薄するユニークな書物が、加門七海『着物憑(つ)き』である。

 大の着物好きで着付けにも厳しい母親に育てられた著者は、それゆえに和装には、むしろ距離を置いてきたという。ところが近年、ある奇縁(著者のことゆえ当然、怪談めいた話)をきっかけに、着物好きどころか着物憑きと呼ぶほかないような奇異なる情熱に駆り立てられることとなり……本書にはその経緯が「帯留(おびどめ)」「糸」「帷子(かたびら)」等々のテーマごとに、豊富な体験談を交えて綴(つづ)られている。思わぬところに、ひょいと幽霊やら文豪が飛び出すのも愉快だ。

 「ヒガシさん、それでよく鏡花が読めるわね……」と、以前『着物憑き』の著者から、和装に関する無知を呆(あき)れられたことがある私だが、確かに鏡花の執拗(しつよう)な和装描写には、時に鬼気迫るものがある。

 このほど第1巻『龍蜂集』が出た〈澁澤龍彦 泉鏡花セレクション〉は、半世紀ほど前に澁澤の手でリストアップされた鏡花の名作佳品を、山尾悠子の解説で選集に仕立てた好企画。初期のマイナーな作品に比重が置かれているのが特色で、鏡花の知られざる魅力にふれることができよう。小村雪岱(こむらせったい)と柳川貴代の時を超えたコラボによる贅沢(ぜいたく)な装釘(そうてい)・造本も魅力的。=朝日新聞2019年12月8日掲載