戦に明け暮れた戦国時代、ほんのひととき平和が実現した。赤神諒(りょう)さん『計策師(けいさくし) 甲駿相三国同盟異聞』(朝日新聞出版)は、武田家、今川家、北条家の長年の恨みや利害の対立を巧みにかわし、時に真っ正面から向き合った外交の舞台裏を切り取った。
武田晴信(信玄)に仕える向山又七郎の武器は舌一枚のみ、人を斬った経験も、一度だけ。敵陣に一人乗り込んで降伏を勧告し、裏工作に走る「計策師」だ。出入りの商人を装いつつ他家の御曹司に近づき、贋作の名画を持って交渉に臨む。だまし、だまされながら実現不可能に見える同盟締結に奔走する。
「計策師」という言葉は造語。向山又七郎という人物の実際についてもほとんどわかっていないという。「たかだか400年前の人たちなので、家族を大切にするといった、現代人が当然持つべき感覚を持ってしまっている。ただ、それを時代が許さない。その悲劇を描きたかった」
九州の戦国大名・大友家を描いた日経小説大賞のデビュー作『大友二階崩れ』の刊行から2年目にして、著作は単行本だけで7作にもなる。デビュー作をはじめ、大友一族に着目し、書き続ける「大友サーガ」で知られる。「世界一の大友作家になりたい。面白くて、しかもあまり書かれていない」
環境法や行政法を専門とする現役の弁護士で、大学教授。研究では文化財保護や町おこしに関心を寄せる。小説を使った町おこしの実験がしてみたい。「参加型の小説ができないかと思っている」。発想はどんどん広がっていく。(興野優平)=朝日新聞2019年12月18日掲載