坂口さんの速水はかっこよすぎます(知念)
――まずは坂口さんが原作を読んだ感想と、医師でもある知念さんならではと感じたところを教えて下さい。
坂口健太郎(以下、坂口):今回のオファーを頂いて原作も読みましたが、一つのことが分かるとジェットコースターのようなスピードで進んでいくので、読み終えるのがあっという間でした。物語には色々な謎が盛り込まれていたので、これを映像にするのは大変だろうなと思ったんですけど、楽しみでもありましたね。
この作品は、いわゆる「医療もの」というわけではないんですが、傷をおった瞳のケアや手術シーンなどの描写は、想像ではなく知念さんの経験に基づいて書かれていたので、速水がとる医療行為について何も疑問がなかったのはすごくありがたかったです。僕自身にとっては普段ではやらないことをやるわけなので、原作・脚本の中で一つ整合性がとれているというのは、物語を読むのにあたってすんなり入っていけました。
――知念さんにとって本作が初の映画化になりますが、坂口さんが演じられた速水をはじめ、ご自身が書かれた登場人物が「生きている」姿をご覧になっていかがですか?
知念実希人(以下、知念): 自分が書いたものが映像化されるというのはとても嬉しいことですし、坂口さんや永野さんをはじめ、演技力のある方々に演じていただき光栄です。ミステリーなので、結構難しい演技になるところが多いかと思っていたんですが、そこもしっかりと演じていただけました。撮影現場は一度見学させていただいたんですけど、たくさんの方々がこの作品に関わっていて、それぞれプロの技術を使いながら撮影している姿を拝見できて良かったです。それにしても、坂口さんの速水はかっこよすぎますね(笑)。小説の場合、読者が主人公を自分たちに投影するようにしなければいけないので、どうしても見た目はニュートラルになるんですよ。でも、実写化するならやっぱりイケメンの方がいいですね。
――坂口さんが役作りで心掛けたことや、速水という人物像をつかむのに手掛かりとなったところはどんなところでしたか?
坂口:最初は瞳に対して、どこまで固執するべきなんだろうと思っていました。多分、速水自身はそれまで、事故で亡くした洋子さん(元恋人)の方に意識を持っていかれていたと思うんです。でも、事件が起きて速水はまずピエロに撃たれた瞳を助けるために動くんですけど、最初は「その日ピエロが連れてきた、初めて会う女の子」というだけだったので、なにがきっかけで彼女に対する意識が向くようになったんだろうなと考えたんです。台本を読んでいてもそうでしたが、演じている中で「きっと瞳のこういうところを洋子さんと重ねていたのかな」という気づきは、ちょこちょこ拾っていくようにしていましたね。
作中で、瞳に対して「君だけは僕が絶対に守る」と言うセリフがあるんですが、「君だけは」っていう明確なエネルギーが速水にはあるんだと感じました。病院には他にも患者さんが何十人もいるんだけど、一人の医師として、どこで瞳にぐいっと意識を向けようかということは、お芝居をするうえで心掛けていました。
原作を大事にするとキャラクターが近づいてくる(坂口)
――坂口さんは原作と脚本からここまで速水の心情を読み解かれていますが、これを受けて、いかがですか?
知念: 僕は外科医ではないのですが、外科医にとって自分が執刀した患者さんって特別なんですよ。当直医というのは、その日の夜に患者さんが急変したら主治医に連絡をしなければいけないという役割であって、治療の全権は主治医にあるんです。だけど、もし手術を担当した場合は自分の患者さんになるので、自分が全責任を負わなければいけないんです。
僕の考えとしては、自分が手術を担当したら、その患者さんは絶対に自分が守らなければいけないと思っています。医師をはじめとする医療従事者は「自分の担当患者を絶対助ける」ということを最優先する本能があると思うし、それは当たり前のことだと思って本作を書いたので、坂口さんがそこをきちんと読み取ってくださったからこそ、瞳に対する感情の変化も丁寧に演じていただいたのだと思います。
――知念さんが本作を映画の脚本に構成し直したポイントはどんなところでしょうか。
知念:最初に脚本を書いた時点では、まだ監督の方が決まっていなかったので、ミステリーとしての基礎構造だけは書いて、その後、木村(ひさし)監督の演出が加わり、色を付けていく作業に入りました。脚本化するにあたってのポイントとしては、速水をはじめ、登場人物たちが人として生きているキャラクターとはどんなものなのか、というところです。この人はこの時どういう行動をとるのか、などを肉付けして出来たキャラクターたちだからこそとる行動が加わって、一つの作品になったと思います。原作でも映画でも、ご覧になった方が自分も病院に閉じ込められて、何かわけの分からないものに翻弄される、というスリルを味わってほしいという思いを一番に書きました。
――坂口さんが実写化作品に出演する際に気をつけていることはありますか?
坂口:原作は原作として割り切って、実写では実写のキャラクターを作るとか、人によって色んな選択肢があると思うんですけど、僕は原作をすごく大事にしたいんです。だから、なるべくそれに寄せたいなと思うし、そのキャラクターに外側から近づくと、勝手に内面も近づいていって、気持ちや考えていることも自然と分かってくるんです。原作がある時点で、かなり役作りとしての助けになっているんですよね。本には感情だってト書きだって書いてあるし、マンガだったら表情も分かりますよね。僕はいつも、原作自体が台本だと思って読んでいるんです。