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広瀬克也さんの絵本「妖怪横丁」 愛嬌とリアリティをたっぷり描き込んで

文:加治佐志津、写真:有村蓮

絵を隅々まで読み込んで楽しんでほしい

―― からかさおばけ、ひとつめこぞう、だいだらぼっち、いったんもめん、さとり、びわぼくぼく……広瀬克也さんの妖怪シリーズ(絵本館)には、有名どころからマイナーなものまで、さまざまな妖怪が続々と登場する。シリーズ1作目は、お母さんにおつかいを頼まれた男の子が、妖怪たちの営む商店街に迷い込む『妖怪横丁』。以降、『妖怪遊園地』『妖怪温泉』『妖怪食堂』などの続編を含め、現在7作が刊行されている。

 『妖怪横丁』誕生のきっかけとなったのは、挿絵を担当した『日本の妖怪大図鑑』(ミネルヴァ書房)です。「家の妖怪」「山の妖怪」「海の妖怪」の全3巻で、たくさんの妖怪のイラストを描きました。その仕事をしているうちに、小学生の頃の記憶がよみがえってきたんですよ。水木しげるさんの初期の作品に心惹かれたこととか、怪奇もののテレビ番組が大好きだったこととか。当時は怪奇ものがブームでしたからね。その後、絵本館の編集長の有川裕俊さんから「妖怪で創作絵本を作ろうよ」と声をかけてもらって、『妖怪横丁』に取りかかることになりました。

 妖怪ばかりの商店街を舞台にしよう、というアイデアはわりと早い段階で思いつきました。いろんなお店を妖怪バージョンで描いていくわけですけど、リアリティが必要だと思い、まずは撮影に出かけました。青山とか六本木みたいなおしゃれなところじゃなくて、昔ながらの商店街の懐かしい雰囲気を持っている店の写真をたくさん撮り、そこからアレンジして描いていきました。

『妖怪横丁』(絵本館)より。だじゃれの効いた看板も多い。「だじゃれはそんなに得意じゃなかったんだけど、妖怪シリーズをやっている間にどんどん出てくるようになりました(笑)」

 だから『妖怪横丁』に出てくるお店は、実在するお店がモデルになっているものが多いんです。「からかさおもちゃ店」は、近所の商店街にあるおもちゃ屋さんで、「こども服のはなこさん」は隣町の子供服屋さん、「ロクロックビ楽器店」は最寄り駅そばの楽器屋さん。おかげで描き上げるのに結構時間がかかってしまいましたが、有川さんが「妥協しないでとことんやろう」と言ってくれたので、じっくり取り組むことができました。

―― 「おとうふ おねがいね」「おや、みかけないこがやってきたよ」「ぼうや、おひとついかが?」など、文章は各見開きに一文程度とかなり短いのだが、絵の中には情報がてんこもりだ。たとえば「たぬき銀行」の看板には「たしかな信用と実績」のキャッチコピー、「はらづつみキャンペーン あずけよう! ポンポン」のポスター、「お知らせ まもなくキツネ銀行と合併」の旗、といった具合だ。

 絵を読んで、楽しんでほしいですね。『妖怪横丁』はラフの段階でかなり描き込んだので、本描きに入ってテンションが低くならないようにと、さらに描き込んでいきました。隅々まで見て面白がってもらえたらうれしいです。

『妖怪横丁』(絵本館)より

 「やまんば産婦人科」の「安心の経験と実績!」とか、看板などには漢字もかなり使っているんですが、ルビは特に振っていません。そういう部分は大人が読んで楽しむだけでもいいし、子どもだって何度も読むうちに、読めるようになってきますから。このシリーズは小さい子どもだけでなく、小学生や大人、さらには年配の方からも結構面白いと言っていただいているんですよ。たっぷり描き込んだ甲斐あって、読み聞かせしてもらったり、ひとりでじっくり見たり、誰かと一緒に読んだりと、長く付き合ってもらいたいですね。

 妖怪以外の登場人物として、おっとりとした感じの男の子が登場するんですが、この子はいわば、読者を妖怪の世界に誘うナビゲーターです。この子のお父さんが化け忍者ということは、3作目の『妖怪温泉』で明かしたんですが、お母さんは手しか出していません。じゃあ男の子の正体はいったい……?とよく聞かれるんですけど、いまだに出し惜しみしていて(笑)。自分の中では一応の設定があるんですけど、今のところは皆さんのご想像にお任せしておきます。

どの妖怪もそれぞれに愛着を感じる

―― 広瀬さんの絵本に登場する妖怪たちは愛嬌があるのが特徴だ。楽し気だがどこか怪しい印象も漂う色合いは、20代の頃、花園神社で見た見世物小屋の雰囲気を意識したという。

 妖怪は幽霊と違って、怨念や恨みはあまり持っていないんですよね。古びて使われなくなった道具に宿る付喪神(つくもがみ)に代表されるように、使ってもらえなくなった寂しさみたいな気持ちがこもることはあるけれど、どちらかと言えば“いたずらっ子”みたいな印象が非常に強いんです。だから、最初はもっと怖く描こうと思っていたんですけど、自然と愛嬌が出てしまいました。あまり怖い感じにはならないんですよ。

 これだけ妖怪をたくさん描いていると、みんなそれぞれに愛着が生まれてきます。子どもたちに人気なのは「みのわらじ」かな? 『妖怪遊園地』で男の子に落とし物を届けてくれた妖怪ですね。シリーズの中で最も版を重ねているのは『妖怪温泉』。入浴の心得とか温泉の効能とか、面白いネタをあれこれと考えて描き込んで、これはみんなも笑ってくれるぞ、なんて自分でも面白くて盛り上がったりしていました(笑)。

―― 2011年に『妖怪横丁』と『妖怪遊園地』が出たあとも、毎年一冊のペースでシリーズ新作の出版が続き、7作目『妖怪美術館』が2017年に出版された。今後、続編の予定はあるのだろうか。

 『妖怪美術館』のあとも妖怪シリーズ以外の絵本をいろいろと手がけていました。『にげろ! ケロケロ』(風濤社)とか、おおなり修司さんと組んだユーモア絵本『きになる』(絵本館)とか。最近では、猫たちがぞろぞろと集まって、部屋の中で突然踊り出す『ねこ おどる』(絵本館)という絵本も作りました。うちの猫も登場する陽気な絵本です。

近作『ねこおどる』のモデルとなった広瀬さんの愛猫しおちゃん

 妖怪シリーズはサクラマット水彩という、小学生も使うような水彩絵の具を使って描いているんですが、『ねこ おどる』はダーマトグラフで線画を描いたあとパソコンに取り込んで、Photoshopで色をつけています。版を作って重ねて、わざと版ズレを起こしたりしてね。妖怪だけでなく、違うテーマや手法にも挑戦して、バリエーションを増やしていきたいなと思っています。

 妖怪シリーズ8作目の新作も、今まさに進行中です。妖怪シリーズはもはやライフワークですね。まだまだアイデアがあるので、楽しみに待っていていただけたらうれしいです。

「妖怪横丁」でやっと絵本作家としてのスタート地点に立てた

―― 中学時代、横尾忠則さんや和田誠さん、宇野亜喜良さんらが手がける作品に魅せられて、イラストレーションやグラフィックデザインの仕事に憧れた。高校時代には、谷内こうたさんや長新太さんらの絵本を見て、絵本の魅力に取りつかれた。かつて銀座にあったイエナ洋書店で、海外の絵本を買い集めたこともあったという。

 ただ自分で作るとなると、そう簡単にはいかなくて。15画面ぐらいでひとつの世界を構築して、ストーリーの展開を意識しながらページを構成するわけですが、これがかなり難しいんですよ。だから長らくイラストレーターやグラフィックデザイナーとして活動していました。

 デビュー作『おとうさんびっくり』(絵本館)が出版されたのは、30代後半のことです。原稿ができあがって一番に五味太郎さんに見ていただいたら、「いいね。どこか(出版社を)紹介しよう」と言ってくださったんです。なのに僕は「自分で回ってみます」なんて言っちゃった。若気というより馬鹿げのいたりです(笑)。どんな出版社があるのか知りたいっていうのもあったんですけどね。それでいろいろと出版社を回ったんですが、どこもだめでした。「おじさんが主人公では子どもが飛びつかない」とか、「もうちょっと年取ってから作ってみれば」とかいろいろ言われて、かなりへこみましたね(笑)。

『妖怪横丁』表紙ラフ

 でも「このままじゃあきらめきれない」と思って、クレヨンハウス絵本大賞に応募したら、優秀賞をいただいたんです。それを絵本館の有川さんが「うちで出そう」と言ってくれて、出版に至りました。ただその後は、なかなか思うように面白い絵本が作れなくて。ラフを描いても描いても、満足いくものができませんでした。それでしばらくは、デザインの仕事をしながらぽつぽつと絵本を作る、という感じでやってきました。

 連続して絵本を出せるようになったのは、『妖怪横丁』以降です。その時点で、もう50歳を過ぎていたので、いつぞや言われた「もうちょっと年取ってから作ってみれば」というのもあながち間違っていなかったのかな、なんて(笑)。妖怪からパワーをもらったかな、と思ったりもしましたが、どうなんでしょうね。『妖怪横丁』でやっと絵本作家としてのスタート地点に立てた気がします。

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