親子の日常の中にあふれる幸せを描いた絵本
――『ちょっとだけ』(福音館書店)は、赤ちゃんのお世話で忙しそうなお母さんを見て、自分でいろんなことをやってみようと頑張るなっちゃんが主人公。ボタンをかけ違えたり、牛乳をこぼしたりしながら成長していく姿は、健気で応援したくなる。でも、眠い時だけはママにどうしても甘えたくなって……。子どもを持つ親なら誰しもが経験したことのある、育児の切なさや温かさが伝わってくる絵本。著者の瀧村有子さんは、自身も3人のお子さんを持つお母さんだ。
子どもが小さい頃から、私は手作りの絵本を作って読んであげていました。このお話はそのひとつで、日常の中で感じていたことを形にしたものです。年の近い子が3人もいると、どうしても順番を待ってもらうことが多くなりますし、1対1で向き合う時間もなかなかとれません。それでも子どもたちは優しいんですよね。私が子どもを待たせることがあっても、子どもはずっと待ってくれましたし、きょうだいのお世話もしてくれました。それは本当に幸せなことだったなと思って、絵本で表現したくなったんです。
『ちょっとだけ』のなっちゃんは、お母さんの代わりに自分でやってみようと頑張ってみるでしょう。ちょっとだけ自分でできたことが、すごく嬉しい瞬間でもあります。私はお姉さんになるのが夢だったので、妹が生まれたとき、さみしいだけでなく嬉しくて、あれもこれも世話してあげたくなりました。きょうだいが増えたとき、上の子に対して「我慢させてごめんね」という気持ちになるお母さんが多いそうですが、私は逆に幸せも増えていると感じています。
育児をするお母さんの気持ちは、国を越えても変わらない
――『ちょっとだけ』では、なっちゃんが懸命にお姉さんになろうと頑張る中で「“ちょっとだけ”だっこして」と母親にお願いする場面がある。「いっぱいだっこしたいんですけど、いいですか?」という母の返事と、その後の子どもの嬉しそうな顔に、涙腺が緩むお母さんも少なくない。瀧村さんは、どうしても忙しいお母さんだからこそ、100%で対応できなかったことを負い目と考えるのではなく、育児に丁寧さをプラスしていくことが大事だと考えている。
まだ子どもが小さい頃は、「とにかく子どもが怪我をしないように」ということだけで、もういっぱいいっぱいでした。でも自分に余裕がないからこそ、子どもに対して「丁寧に受け取って、丁寧に伝える」ことを大事にするように心がけました。子どもを大切に思っていることを丁寧に伝えたいなら、「抱っこしてあげるからおいで」ではなくて「お母さんはあなたのことを抱きしめたいんだ」と声にしてあげたらいいと思っています。
この絵本は、絵本作品の一般募集がきっかけで生まれた1冊です。福音館書店の「こどものとも」を取っていたときに、『わたしがつくる「こどものとも」作品大募集』というチラシが入っていて、自分で作った絵本「ちょっとだけ」を出してみたんです。そのときは残念ながら入賞できなかったのですが、後日編集者さんからお手紙をもらって、絵を鈴木永子さんにお願いする形で出版できることになりました。永子さんが本当に素敵な絵を描いてくださって、あたたかな絵本ができあがりました。
この『ちょっとだけ』は、その後フランスで出版されて、中国、韓国、台湾などでも翻訳出版されました。フランスからの依頼があったときは、とても嬉しかったですね。フランスのお母さんも、こういう気持ちを大事にしたいって思いがあるのかなと思いました。表紙のなっちゃん達が海外に行って、本棚に得意げな顔して並んでいるんだと思うと、本当に嬉しいですね。
いまもいろんなところで講演に呼ばれることがあって、子どもに対するお母さんの気持ちは、どこも変わらず愛情深いと感じます。私は絵本を通して、これからも、あたたかい母子の愛や、幸せな日常の家族愛を描いていけたらいいなと思っています。