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【起業家たちのビブリオグラフィー】freee CEO・佐々木大輔さんを育てた「坂の上の雲」など5冊

文:井上良太(シーアール)、写真:小島加奈子(シーアール)

「うわさのズッコケ株式会社」で会社の仕組みに触れる

——今回、佐々木さんには好きな本として5冊を挙げていただきました。その中で1番最初に出合った作品を教えてください。

 最初に出合った本は小学生の頃に読んだ「うわさのズッコケ株式会社(那須正幹・著)」です。

——「ズッコケシリーズ」は人気のある児童書ですね。ハチベエ、モーちゃん、ハカセという仲良し3人組が毎回いろんなことに挑戦したりトラブルに遭ったり。

 小学校3〜4年の頃に出会って当時出ていたシリーズのほとんどを読んだけど、内容をちゃんと覚えているのはこの物語ぐらいですね。本当に面白くて最近でも読み返したほど。「うわさのズッコケ株式会社」は、3人組がお弁当販売する株式会社を設立して成功を目指すストーリーです。

 僕は実家が美容院で自営業だったので、本で描かれているように小さな商売が産業の隙間を埋めて世の中に価値を作ることや、ビジネスに関わるみんなが最終的にハッピーになるところにワクワクしました。この本が僕が起業するのに直接影響したわけではないですが、会社の仕組みなど大人にならないと、わからないことを先取りして見られた面白さもありました。

 実は高校時代にカバンを作って売っていたことがあって、それは「うわさのズッコケ株式会社」からのアイデアに近いかもしれません。当時は私立高校のカバンが流行っていて、僕の高校にはそれがありませんでした。でも流行っているから、みんなは違う学校のカバンを持つようになった。僕はそれがなんか「嫌だな」と思って、自分たちが通う学校に誇りを持つきっかけにもなるかと思い、カバンを作って売るようになったんです。

——非公式のカバンということですか?

 そうです。今では公式のカバンになっていますが。

——そんなことってあるんですか(笑)。詳しく聞かせてください。

 要は、僕が作っていた非公式カバンに似たものが公式として作られたということなんです。そもそもは「校内でカバンを売って金を稼いでいる奴がいる」というのが問題になって。でもそんな中で「あれって結構いいから、公式のカバンを作ればいいんじゃないの?」と言ってくれた先生がいたらしいんです。そうして、僕の非公式カバンに似た、公式カバンが誕生しました。もちろん僕のカバンは非公式なのでその際、僕にお金が入ることはなかったですが(笑)。

——ユニークで珍しいエピソードですね(笑)。まさにリアル「うわさのズッコケ株式会社」。

 進学高校に入ったことで、周囲に勉強ができる人はたくさんいて、勉強も運動も音楽も人に敵わない。アイデンティティークライシスというか「僕の特徴は何だろう?」と考えることがあって、でも自分でカバンを売ったりして物事を解決しようとする姿勢は自分の特徴の一つで、その道なら面白がって頑張れるんじゃないかと当時は思いましたね。

幼少期に夢中で読んだ「織田信長」

——佐々木さんは、小さい頃から読書家だったのですか?

 好きでしたが、そこまでではないです。クラスで順位付けするなら30人中7番目ぐらい。たくさん読むようになったきっかけは、それも小学生の時に読んだ「織田信長(山岡荘八・著)」ですかね。織田信長を題材にした小説は、それ以外にもかなり読みました。常識にとらわれず様々な手法で問題を解決しようとする信長はかっこいいです。

——元々、歴史が好きだったということですか?

 歴史というより信長が好きですね。きっかけは大河ドラマで、信長が常識にとらわれない魅力的な人物に思えて。もっと知りたくて、それまでよりもいろんな本を読むようになりました。

——佐々木さんはどんな子どもでした? 勉強は小さい頃から好きでしたか?

 天邪鬼な子どもだったと思います。掃除の担当であまり人気のないゴミ捨てが大好きだったり。人気のないものに対して価値を見出すのが好きでした。

 勉強は取り立てて得意ではなかったです。特に算数が苦手で、数学だと話は違ってくるんですが。たまたま多くの子どもが受験勉強をする地域だったから、みんなと一緒に塾には通っていました。塾ではトランプが流行っていて、大貧民の強い友人はみんな上のクラスに行っちゃうんですよ。だから張り合いのある仲間と一緒にいるために「勉強しなきゃ」と、頑張った覚えはありますね(笑)。

——大貧民がやりたくて勉強を頑張るというのは珍しいですね(笑)。

 小学校の時に人に負けない自信があったのは、大貧民ぐらいかもしれません。それ以外に取り立てて特徴のある子どもではなかったと思います。塾への道中で信長の本を読んで、塾では大貧民をする日々ですね。

——普通の子どもとすでに違うような気もしますが(笑)。学生時代は美容師になろうと考えていたそうですが、実際はそうせずfreee株式会社を立ち上げに至った経緯を教えてください。

 実家が美容院だったので、自然と美容師になろうかなと思っていたんです。でも当時、木村拓哉さんが主演のドラマ「ビューティフルライフ」が人気で、ふと「キムタクになりたい人」って思われたらやだなと思って(笑)。それでとりあえず留学してみようかと。なぜか僕は大学受験のタイミングで数学が急に好きになって大学に入った時にはデータ分析や統計や確率に惹かれるようになっていました。商学部でマーケティングの授業などをとっていたのですが、それは大人になってから本を読めばできるかなと。先生がサポートしてくれる環境でしか学べないものと考えると、僕としては確率や統計だったんです。それで留学するし、せっかくだから勉強でもするかと所属していたラクロス部もやめて、のめり込んでいきました。

 いざデータ分析などを勉強していくと、段々とリアルなデータを分析して実際に問題解決したくなるものなんですよね。それで学生だけどベンチャー企業でデータ分析の仕事をするようにもなりました。

——データ分析をしている人は、リアルなデータを扱いたくなるものなんでしょうか?

 もちろん人によりますが、そうしないとモチベーションが保てなくなる人は多いと思います。それにTwitterのツイートなど今ならネット上に分析すべきデータがたくさんありますが僕の学生時代はそれほど多くなく当時は、企業で働くのが最も手っ取り早いデータとの触れ方だったように思います。

「高橋是清自叙伝」に勇気づけられた

——経済や数学というと大蔵大臣も務めた、第20代内閣総理大臣・高橋是清の自叙伝も挙げていただきました。

 これもきっかけはテレビドラマです。オダギリジョーさんが主演のNHKドラマ「経世済民の男 高橋是清」を観て興味を持ち「高橋是清自叙伝(高橋是清・著)」を読み始めました。彼は小さい頃にアメリカで奴隷として売られて英語を覚え、商館で働いて貿易の仕組みを知る。そうして海外センスを身につけた後もいろんなことに興味を持って、英語教師や役人、米の相場師など職を転々とします。その中で失敗もたくさんするんですが最終的に日本銀行の総裁や大蔵大臣、総理大臣を歴任する。既成概念を取っ払った手法を用いた功績がたくさんあり、めちゃくちゃな経験主義がそれに繋がっていたり。近代の歴史上の人物の中で一番ぶっ飛んでいると思います(笑)。

 要職を歴任した高橋是清ですが、日露戦争のための資金調達で功績を挙げた人でもあります。当時ベンチャー企業を作って資金調達をしていた自分とスケールは異なるものの共感できることが多くて。この本は僕がfreeeを創業して2〜3年後に読んだのですが小さなことで、くよくよしているわけにはいかないと発破をかけられた思いでした。

開花期の日本に胸を熱くした「坂の上の雲」

——立ちはだかる壁に対して、いろんな手法で解決を図るというのは先ほどの信長にも通じるところですね。4冊目の「坂の上の雲(司馬遼太郎・著)」とはいつ頃出合ったのでしょう?

 20代半ばですね。それまでも司馬遼太郎の小説はいくつか読んでいたのですが、タイトルが気になって手に取ってみたんです。

——明治維新後を舞台に日本陸軍の騎兵部隊を創設した秋山好古、その実弟で海戦戦術の創案者である秋山真之、その親友である俳人・正岡子規の3人を主人公に、日本が近代国家として成長していく物語です。時代的には高橋是清と被っていますがこの時代が好きなんですか?

 日本よりはるか先をいく欧米の近代国家と、西欧列強からより多くのことを吸収していきたい日本。そのためにいろんなリーダーが出てきて、徹底的に分析する人物も登場して「絶対に海外に追いつく!」といった熱い想いで溢れていて、時代全体の描写としてすごく惹かれました。

 とにかく何に対しても貪欲に知ろうとするし、「あんな面白いものがある」と一度は取り入れてみる、燃えていた時代が日本にあった。しかもその中で、正岡子規は西洋にかぶれて野球を日本に広め、俳句についても深める。秋山真之も海外の海軍のことを研究し猛烈に学び、それを瀬戸内海の海賊の戦法と合わせて戦術にするなど世界中のものを研究し、さらにそれを日本のいいところと合わせてイノベーションを生んでいく新しいカルチャーもちゃんと作るんですね。その努力が素晴らしいです。

 僕は大学時代にスウェーデンに留学してビジネススクールに通ったのですが、そこで感じたのは海外は世界中のいろんなことに対してすごく勉強しているなと。もちろん日本企業のことも。それで導き出した「いいやり方」を生徒に学ばせるんです。社会人になって2〜3年目の頃、僕が感じた日本の企業の印象は「こういうのは日本の会社には当てはまらない」みたいなことをすぐに言ってしまう。世界のベストプラクティスに対しても「うまくいかない」って、簡単に蹴散らしてしまうんです。それに悶々としていた時期に読んだ「坂の上の雲」は「そうじゃない日本があったんだ!」と励まされました。

 その後Googleで働いていた時にも、やっぱり同様の印象はありました。Googleの中でも、日本人社員は「世界でうまくいっているけど日本では難しいから取り入れない」「だから勉強しても無駄」という思考に比較的なりがちでした。僕は本来、好例のエッセンスは何なのかを日本はもっと学ぶ必要があるし、今の世界はそうやって動いていると考えています。

 例えばGoogleには日本の自動車メーカーであるTOYOTAのエッセンスも入ってるし、企業の考え方に、ほかにも日本のいろんな考え方が移植されています。一方で日本はどうなの?と……。外国は世界中のことを勉強してベストプラクティスを見つけた上で、自分たちの独自性と向き合っていくのに日本がそれをしないのはもったいない。でもそれが日本の特性ではないこと、かつては外から必死に学び分析して取り入れてきた国であったことを「坂の上の雲」を見てわかった。まだまだ日本が変われることを知って、勇気付けられたんです。

——そういう思いもあってGoogleで働いていた時にfreeeのサービスを思いついたそうですね。freeeのサービスが中小企業をターゲットにしたきっかけを教えてください。

 僕はGoogleで中小企業向けのマーケティングチームに所属していました。中小企業にGoogleのインターネット広告を利用してもらうために、広告主に提供していくサービス。インターネット広告をやりたいと思ってもらえるようダイレクトメールやコールセンターを作ったりしていました。

 freeeのサービスが中小企業をターゲットにしているのはGoogleでやっていた仕事の中で最も好きなテーマだったことが理由の一つとしてあります。そして中小企業がテクノロジーによって大企業よりも強くなる可能性があると僕は本気で考えているんです。そうやって世の中に革命を起こしたいし、美容院をやっている家庭で育ったこと、僕自身がそれを誇りに思っているからこそ中小企業や自営の人をもっと応援したいという思いがありました。やっぱり「人生をかけてやってるんだ」っていう自営業の人たちは気持ちが強いし、いい物を作れる可能性に満ちていると思います。けれでもそんな人の中には経営が苦手な人たちもいる。それを僕たちがサポートすることによって小さなビジネスが大企業を脅かすことになれば世界はもっと活気づいていって、より良くなっていくのではないかなと。それは信長でいえば、世の中全体が桶狭間みたいな激しさというか(笑)。

「あなたのチームは、機能してますか?」でより円滑な組織に

——本当に信長がお好きなんですね(笑)。信長も高橋是清も「坂の上の雲」の登場人物たちも、みんな熱い想いを持った人物で共通点があるように思えます。最後に挙げてもらった本は「あなたのチームは、機能してますか?」。著者のパトリック・レンシオーニ氏は、ビジネス管理に関する書籍などを書く作家だそうですが、こちらはフィクションですね。

 そうです。「企業家が経営者になるうえで読むべきマスト本」のようなかたちで英語のブログで紹介されていた記憶があり、気になって読んでみたら、頭をガツンと殴られたような感覚を覚えた目から鱗的な本ですね。読んだのは創業から2〜3年ぐらいの時で、当時の会社は従業員が50〜60人ぐらい。経営やチーム作りについて考えないといけない時期だったのですが、それに向き合えなかった僕にとってブレイクスルーになりました。組織の力を最大化するために何をすべきか悩んでいる中で、この本に書かれていることを実践してみたんです。僕はビジネス書に書かれていることを実践することはあまりないんですが、この本に関しては「すごく面白そうだからこの通りにやってみよう!」と、自然と思えました。

——実践したのは、具体的にはどんなことだったんでしょう?

 この本のストーリーは仲の悪い経営チームがいいチームにシフトしていく物語です。その中で例えば経営チームを作ったら会議ではなく、まずは自分の生い立ちなど身の回りのことを互いに話してみようという施策が登場します。合宿をしてビジネスの利害関係を抜きに「人間として知り合おうよ」みたいな。利害関係を絡ませてしまうと相手が自分の利益だけを考えて発言をしているように見えて「マジでムカつく!」「許せん!」と感情的になってしまう。それを人となりを知ることで「実は悪い人ではない」ということを知り、どんな性格でどんな立場だから、こういう発言をせざるをえないのかが見えてきたりするんです。

 当初うちの会社はエンジニアばかりで、新しく入ってきたビジネスのチームと仲が悪いという問題を抱えていたんです。それで本を読んですぐに合宿をやりました。するとそれまで本当にケンカしていたような2人が急に仲良くなり始めたり(笑)。そういうことって人間関係においては初歩的すぎて、ビジネスシーンでは意外にスポットを当てないんです。でもこの本には、そういったことの大切さを改めて考えさせられました。

——確かにビジネスマンとして生きる中で戦略的な根回しなどはあっても、純粋に相手を知ろうとすることは少ないのかもしれないですよね。

 フィクションなのにストーリーが逐一「あるある」なんですよ(笑)。それでいてリアリティに溢れ、変にロジックで書かれているよりもよっぽど共感できて実践してみようと思えるんです。

——佐々木さんのお話をお聞きしてこの本のことが更に気になりました。フィクションということは読み物として秀逸なんじゃないかと。

 そう、ちゃんとした読み物なんですよ。だからこれを読んだ時は夢中になりすぎて半分くらいはトイレで読んだと思います(笑)。

——それからfreeeは成長を続け遂に2019年12月17日に東京証券取引所マザーズに上場を果たしました。最後に今後の展望を聞かせていただきたいです。

 これまで「クラウド会計ソフトfreee」や「人事労務freee」などのサービスによって小さなビジネスにおける業務の自動化や、経営の可視化に取り組んできました。しかし会社としてのビジョンは誰でも起業するチャンスがあって、よりビジネスをやりやすい環境を作っていくことがゴールなので、これまでのサービスで蓄積したデータを基に様々なビジネスに対して提案をしたり、お金の問題を自動で解決したりする、人工知能のCFO(最高財務責任者)のようなサービスを作って、スモールビジネスをもっと盛り上げていきたいと思っています。