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そうだったのか 柴崎友香

 数年前から、気になっている現象があった。飲食店に入って、がらがらだったり自分以外お客さんはいなかったりするのが、食べていると次々人が入ってきて、出るときには満席、なんてことがしばしばある。

 もしかして、子供のころに読んだ昔話みたいに福の神がついているのでは、と妄想を膨らませていた。だが、このあいだやっと気づいた。どうも、多くの人はお客さんがすでにいる店に入るようなのだ。

 わたしは、いわゆる「いらち」で並ぶのも待つのもすごく苦手で、外でなにか食べようかなーというときは、空いている店に入る。どうしてもそこに行きたいとき以外は、待っている人が一人でもいたら違う店にする。その上、天邪鬼かつ判官贔屓(ほうがんびいき)な性質があるため、「行列のできる人気店」には意地でも行かない。

 引っ越してから、地元の情報が知りたくて地名でSNSを検索していると、「あの店が気になっているけどお客さんがいなかったから入りにくかった」「行列ができていたから並んでみた」などの言葉がいくつも出てきた。そうか、それで人が少ない店にわたしが入ると、他の人が入りやすくなって人が増えるのか、と合点がいった。わたしも、おいしそう、かつ、人が少ないところを選ぶわけで、それは他の人にとっても誰かいれば入ってみたい店だったのだ。

 これだけたくさんお店があると、どこで食べるか決めるのに、お客さんがたくさんいる=おいしい確率が上がる、と考えるのはある程度合理的なのかもしれないが、必ずしもそうではないし、待ったぶんだけ期待値が上がってしまうので、やっぱりわたしは人が少ない店に入る。並ぶこと自体をイベントにしている若い子たちを見ると、楽しそう、とたまには思うけど。

 つい、自分を基準にしてしまうが、違う感覚や現象を推測するのはおもしろい。ただ、理由が判明してしまって、もし福の神がついてたらお金持ちになれるかも、と抱いていた淡い期待は消えてしまった。=朝日新聞2020年1月15日掲載