1. HOME
  2. 書評
  3. 「炎の中の図書館」書評 個性あふれる人間への賛歌

「炎の中の図書館」書評 個性あふれる人間への賛歌

評者: 西崎文子 / 朝⽇新聞掲載:2020年01月18日
炎の中の図書館 110万冊を焼いた大火 著者:スーザン・オーリアン 出版社:早川書房 ジャンル:社会・時事

ISBN: 9784152098948
発売⽇: 2019/11/20
サイズ: 20cm/382p

1986年、ロサンゼルス中央図書館で大火災が発生。40万冊を焼き、70万冊が損傷した。出火の原因は? 図書館は復活するのか? 火災の経緯を軸に、図書館を取り巻く個性豊かな…

炎の中の図書館 110万冊を焼いた大火 [著]スーザン・オーリアン

 1986年4月29日、ロサンゼルスの中央図書館が大火災に見舞われた。40万冊が焼失、70万冊が煙や水で損傷し、マイクロフィルムや写真も失われた。放火犯と疑われたのは俳優志望の青年。虚言癖のある彼の供述は二転三転するが、証拠不十分で刑事告発は見送られた。本書はこの惨事を緒とする図書館の物語だ。
 19世紀半ばに起源を持つロサンゼルスの公共図書館は、西部の一風変わった社会に育まれた。何より個性豊かなのは歴代の統括長たちだ。オハイオからカリフォルニアまで徒歩でやってきた詩人で冒険家のチャールズ・ラミス。不当な解雇に抵抗し「図書館大戦争」を繰り広げたメアリ・ジョーンズ。早くから女性が活躍したのも西部の特徴だ。
 目指される図書館像も独特だ。エンターテインメントと教育の中心たるべきとの考えもあれば、エセ科学本の駆逐に情熱を傾けながら、すべての人々に開かれた図書館を目標としたラミスのような人物もいた。因習を打破し、社会を変革する熱意が活力となる。
 独自性は、「人文主義の大聖堂」を夢見た建築家グッドヒューによる建物にもあらわれた。1926年に完成した中央図書館は、古典的だがどこか異国風。ジャズとエジプトを合体させた雰囲気を持っていた。
 それから90年。今日の中央図書館は、ホームレスを支援し、識字センターを運営し、公民権について学ぶコミュニティーセンターの役割を果たしている。それはまた、人々の潜在能力を引き出す場でもある。驚異的な地図の知識を持つ自閉症の若者に、地図コレクションの索引づくりを任せているのがその一例だ。
 だからこそ、93年の図書館再開の場面が感動を誘うのだろう。乾燥され、燻蒸(くんじょう)され、修理されて棚に戻された本たち。オープニングセレモニーに出向いた5万の人々。そう、これは無限の包容力を持つ図書館と、そこに集う個性溢れる人間への賛歌なのである。
    ◇
Susan Orlean 1955年生まれ。米ニューヨーカー誌スタッフライター。著書に『蘭に魅せられた男』など。